読書感想文「なかなか暮れない夏の夕暮れ(江國香織)」

満ち足りて豊かな気持ちになった。それは、様々な登場人物達の人生の一部を一度に楽しめたせいかもしれないし、主人公がとてつもないお金持ちだったせいかもしれない。「金持ち喧嘩せず」という言葉が思い浮かんだ。生活にゆとりがあって、人格的にも余裕がある人物が出てくる小説を読む安心感を味わった。

 

個人的に好きだった登場人物は、主人公の姉である「雀」だ。おかっぱ頭の独身者でドイツに住む写真家(おまけに資産家)というだけでわくわくしてくるし、姪の波十に対する物言いや、誰に対してもぶれない姿勢に好感が持てた。彼女のような人と一緒に飲みに行ったらとても楽しそうだと思った。 逆に苦手な人物は淳子だ。

 

雑誌の編集長というほどなので仕事は出来て、性格もさばさばしているが、とても面倒くさそうに感じる。矢継ぎ早に話すところや寂しがりやのところなど、あ〜こういう女いる〜と思ってしまった。 主人公が資産家とはいえ、そこまで華やかな話はない。どちらかというと本ばかり読んでいるので地味な部類に入るはずなのに、とても惹きつけられる。

 

私がここの登場人物になるとしたら、茜だなと思う。主人公姉弟が趣味でやっているようなソフトクリーム屋の従業員だが、利益を追求していないお店だし、おまけに一人で切り盛りしていて正社員扱いというから驚きだ。お金に余裕があると周りにも恩恵があると思わずにはいられない。登場人物に嫌な人間は見当たらない。

 

満ち足りた生活(それは金銭面だけではなく心の充足も含めて)をしている人たちは人に意地悪をしないし、不平不満を口にしない。全く悪意がない。生きていればいくつかの事件や思いがけなく傷つくこともあって、時には毒つきたくなることもあるが、それでも時と共に乗り越えていける。

 

そういった底力がこの小説の人物たちに感じるからこそ、安心して読み続けられ、かつ読み終えた後は豊かな気持ちになったのだと思う。丁寧に描かれている日常を読んで、私自身の日常もとても愛おしく感じられた。

 

(40代女性)

 

 

 

なかなか暮れない夏の夕暮れ (ハルキ文庫)
香織, 江國
角川春樹事務所 (2019-08-08)
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