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読書感想文「インフルエンス(近藤史恵)」

「インフルエンス」の読書感想文

80年代の校内暴力渦巻く学校の暗い雰囲気の描写が心に重くのしかかる感じだった。80年代はいわゆる不良の時代で、不良というかヤンキーのかっこよさが美化されがちだけど、別にヤンキーの子たちの美学とかはそれはそれで確かに在るものだし、否定はしない。

でも実際この時代、こういう雰囲気の中で主人公の友梨みたいにごく普通の女子生徒だったり、大人しめの人が学生として学校に通うのは本当に辛かっただろうなと感じる。

誰かにとっては荒々しくカッコいい青春の時代だったかもしれないけど、他の誰かにとっては悪と暴力渦巻く無法地帯の学校でひたすら傷つきながら過ごす日々。特に障害のある理菜子に起こった事が本当にかわいそうだった。

親友として理菜子の事件を経験してしまったアリサも本当に辛いし、やっぱりこのことが本人が思っている以上に友梨の人格形成期の心の傷になったような気がする。これがなければ、後々起こした事件に繋がるような極端な判断には至らなかったんじゃないかとすら考えてしまう。

友梨はずっと「見てただけで何もできなかった」と自分を責める方向で考えてるけど、思春期にこういう状況に放り込まれて、そこで近い人(同級生)の死を経験するっていうこと自体が、やっぱり凄く大きな衝撃として心やその人の人生に残ってしまうんだと思う。

誰かが何かをしていれば起こらなかったかもしれない事件で、人一人亡くなっているのにたくさんある「不幸な暴力事件」のひとつとして何となく流されて忘れられていく。そういう一連の流れが友梨の人生に対する静かな諦念みたいな、鬱々とした態度を作り出す決定打になった気がする。

もちろん陰鬱な団地で生まれ育った環境だったり、里子のことだったり、両親との親子関係や彼らへの不信感、現代の日本社会で女として生まれて生きる苦しみなど、色んなことがあるんだけど…。

最後に殺されるのも細尾だったはずで、それが正しい行いではないことはもちろんなんだけど、友梨が生きて辿って来た心のストーリーとしては繋がるものがあったと思う。里子の境遇の苦しみは言わずもがな。

友梨視点だからあまりはっきり心理が描かれないけど、それでも取り返しのつかないような痛みがヒリヒリ伝わってくる。全体的に暗くて陰鬱で、でも友梨たちが生きてきたような光景は日本にはここ数十年無数に存在したもので、共感せざるを得ない。

絶対に幸せな方向にはならないことを分かっているのに読むのがとにかく止められない一冊だった。

(30代女性)

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