「余命10年」の読書感想文①
もともと私がこの「余命10年」を手に取るきっかけとなったのが、著者自身が作中の主人公と同じ「助からない病」に侵されていたことを知り、衝撃を受けたからである。
一読してみて、ストーリー展開はよくある病弱な主人公と男性の恋愛もの。最終的には自分が死を待つ身ゆえ、最終的には自ら男性から離れ、恋は成就しない結末を迎える。
ただ、ありがちな展開でありながら似たような本と違うと思ったのは、作中に作者自身の強いメッセージがいくつも点在しており、展開の合間に登場してきて強く心を揺さぶられた点である。
主人公=作者といっても過言ではなく、死への恐怖や諦観、余命を告げられてからの生き方・考え方を知ることができた。
リアリティがあるうえに主人公の年齢が私と近かったため、私自身がもし病気に侵されて余命を告げられた時、どういう気持ちになるだろうかと、ページをめくるたびに考えてしまった。
また、この作品のタイトルの通り、主人公に告げられた余命は「10年」である。この10年という数字は短いわけでもなく、かといって長いわけでもなく絶妙に中途半端な時間だと読んでいて思った。
10年という時間があれば残りの生き方を十分に決めることができる。だが、その分苦しむ時間や悩む時間も多くなり、8・9年とカウントダウンに入るたびより苦しくなることだろう。
私が予想した通り主人公はこの時間の使い方を考え、悩まされ、苦しめられることになる。普通に生きることができなくなった主人公と対比して、彼女の姉や友人の近況もはっきりと描かれている。
普通に就職して普通に働いて、普通に結婚して家庭を持つ。この「普通」というものがどれだけ貴重で大切なものなのか、私は主人公に重ねて嫌と言うほど思い知らされた。
しかし、主人公は予想以上に強く、がむしゃらに「自分の人生を楽しむ」ことを信念に生き続けた。そしてするはずのなかった最後の恋をして、最後に満たされて生涯を終える。
悲しさよりも人生の切なさ、人の儚さを強く訴えかける内容で、私はこのシーンに泣いてしまった。小説である以上は「空想の物語」であるが、その一言に片付けられない、様々な感情を訴えかけてくる物語だと感じた。
(20代男性)
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