読書感想文「絵のない絵本(ハンス・クリスチャン・アンデルセン)」

アンデルセンという作家が書いた本で、月が絵描きに語る形式で物語が紡がれていく作品である。私は、純文学でも大衆文学でも、気に入った作品があれば、分け隔てることなく読む方である。但し、児童文学の類は、読む機会に恵まれず、読んでみたいとも思わず、一応はアンデルセンの名前を知ってはいたのだが、実際に読むまでには至らなかったのだ。
 
ただ、古本屋で、厚みのないこの本を見つけ、これならば読むのに時間はかからないだろうと、初めて手に取ってみたのである。最初は、児童文学に不慣れてだったこともあり、口語風な文章にも読み難さを感じたものだ。しかし、読み進めていくうちに、詩的な表現とも、情緒的な表現ともいえるものに戸惑いさえ覚えた私が、気づくとアンデルセンの世界観に取り込まれていたのだ。
 
一見すると、スランプに陥ってしまった絵描きと、長い時を過ごしてきた月との対話、言い換えれば、おとぎ話である。だが、単なるおとぎ話として読んでいた私は、十一夜目の話、その終わりに書かれた、あまりにも美しい表現に、言葉を失ってしまったのだ。
 
「生命の神秘をうたう時には、竪琴にキスを」という、まるで口説き文句にでも使われそうな言葉ではあるのだが、この時の私は、すでにアンデルセンの創り上げた世界に入り込んでいたのもあって、酔い心地という状態になっていたのだ。その為か、純粋に素晴らしいと思ったのだ。
 
また、この作品には、歴史上の出来事が所々で含まれているのだが、あくまでも月が見てきたこととして、絵描きに語っている体である。有名なものとして、火山の大噴火で失われた古代都市、十字架の下で苦しむ母の姿、カエサルの言葉に至るまで、一つひとつの物語は掌編程度でしかないが、その内容には底が知れない深さがあると感じたほどだ。
 
児童文学といえば、読まれる年代としては小中学生が妥当だろうが、この作品は、大人にも読んで欲しいと思えるものだ。私も、読んでみる前には、講釈を垂れたり、児童文学だからと敬遠していたが、立ち寄った古本屋で、童心に帰ったつもりになって軽く読んでみるだけと高をくくったが最後、どうして今まで読みなかったのだろうと、ある種の後悔の念を抱いてしまったのである。
 
これは、私が本当の意味で感動していなかった所為かも知れないが、単に感動に飢えていただけのことなのだろうと、読了をした今なら分かるのだ。
 
(30代男性)
 
 
 
 

 

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