読書感想文「果つる底なき(池井戸潤)」

本格ミステリー作品で謎がどう解けて行くのか気になり、どんどんと読み進められる作品であった。親友がアレルギー性ショックで死んだ事から始まり、そこに絡み合う人々の思いが、どことなく終始重たい雰囲気を作っている。が、主人公が親友の謎の死と、その死に関係するであろう親友が調査していた銀行の取引の謎の部分を淡々と解き明かして行く様は、すっきりとした気持で見ていられた。

 

もしも、伊木が熱血漢で正義感丸出しだったら、暑苦しくて落ち着いて読めないだろうと思う。とはいえ、冷静な主人公ながら結構突拍子も無い事してるなーなんて思う行動も取っているのだが。それもまた面白い。そして、個人的に気に入っているのは、伊木がそれぞれの人物の表情を良く見ている事。

 

その表情から伊木がどんな気持がしたか、どんな感覚を感じたかと言う描写が細かく描かれている。実は、その描写を注意深く読み取っていく事が、犯人を特定して行くヒントになる。相変わらず池井戸潤は人間の心理描写を上手に描く人だなと思わされる。銀行と言う組織で、経営難から立ち居か無いかもしれない会社をどう助けられるかを考える伊木。

 

それとは対象的に上位のポストに付こうと躍起になる人物達の容赦無く会社を切り捨てようとする姿とはくっきりとした光と影を作っている。静かに正義感を保ち続けられる人物はどのくらい今の世の中にいるだろうかとふと思ってしまう。クライマックスに向けてはどんどんとアクション映画ばりに動きが出て来るのが爽快感を感じさせられる。

 

特に、伊木のよりを戻した恋人・奈緒の飼い猫のラストでの活躍は猫好きなら拍手を送りたくなる。伊木のプライベートの話を書くと、伊木がとても優しい人物だと言うのが伝わってくる。親友の奥さんの娘に対してプレゼントを持って行ってあげれば良かったなぁと思うシーンやよりを戻す前の奈緒の経済状態を気にかけるシーン等。

 

それらの描写がある事で銀行と言う硬く見える舞台で、普段聞きなれない言葉が多くありながらも温かさと親しみを感じながらのめりこめるくらい面白く読めた作品である。

 

(30代女性)

 

 

 

 

果つる底なき (講談社文庫)
池井戸 潤
講談社
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