読書感想文「下町ロケット ヤタガラス(池井戸潤)」

『下町ロケット ヤタガラス』は、阿部寛さん主演の2018年日曜劇場「下町ロケット」の後半の原作である。下町の中小企業である佃製作所は、本書では大企業の帝国重工と最終的に協力関係を結び、下町の中小企業が集まった「ダーウィン・プロジェクト」と競うことになる。
 
「ダーウィン・プロジェクト」を牽引するのは、帝国重工の次期社長候補である的場に恨みを抱く男たちだ。的場は、中小企業に対して根深い選民思想を持っている。下請けなぞは、大企業の言うなりにならねばならない存在だと思っている。的場の考え方の犠牲になったのが、ダイダロスを引き上げた重田、ギアゴーストを立ち上げた伊丹であった。
 

 
 
ドラマで表現されている的場のいやらしさ、伊丹や重田のヒール感は、原作も顕著である。復讐に燃える男たちが忘れていたのが、製品を使う人たちの事だった。自分たちの作った無人農業機械を使う農家のことを、伊丹や重田は考えていない。そのために、「ダーウィン・プロジェクト」はやがて頓挫する。
 
その直接の原因となるのは、ギアゴーストに新しく迎え入れられた技術者の氷室だ。島津の後任の氷室は、異常にプライドが高く、ダーウィンが動かなくなったとの報告に接しても、頑として設計を見直そうとしない。その頃、島津は、佃製作所に厚遇で迎えられていた。佃たちの関わるトラクターは、島津の飽くなき探究心によって急速に進化する。
 
島津は、些細なトラブルにも徹底的に向き合い、新しい技術を特許として保護する。ダーウィンは、トラブルを解決しないまま市場に出され、やがて故障が続出する。そして、リコールが現実味を帯びてくる。伊丹は、ダーウィンの欠陥を克服した技術を佃製作所が所有していると知り、ライセンス契約を申し込む。
 
しかし、ギアゴーストに手酷く裏切られた佃たちは、当初、その申し出を拒絶する。佃たちがその姿勢を改めたのは、動かなくなったダーウィンを取り囲み、途方にくれている農家の姿を見たのがきっかけだった。佃は、日本の農業を救うという当初の目的を思い出し、社員たちに呼びかけてライセンス契約を結ぶことを決意する。
 
佃が向かったのは、伊丹たちがダーウィンの窮状を説明していた会場だった。会場で佃は、日本の農業を救うために自分たちの技術を使ってくれと申し出て、満場の拍手を浴びる。その一年後、伊丹が佃の思いを噛み締めながら島津と再会するところで、原作は幕を閉じる。
 
大企業と協力関係になりながらも、下町の中小企業らしい熱さを持つのが佃製作所だ。「下町ロケット ヤタガラス」は、佃たちの熱い思いがさわやかな形で印象に残る作品である。
 
(50代女性)
 
 
 
 

下町ロケット ヤタガラス
池井戸 潤
小学館 (2018-09-28)
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