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読書感想文「希望荘(宮部みゆき)」

「希望荘」の読書感想文

ひょんなことから探偵になった杉村三郎が主人公のシリーズ4作目。数ある宮部みゆきの作品の中でも好きな作品である。今まではっきり探偵を生業としていなかった杉村が、やっと自分の事務所を持つようになって、これからこのシリーズも本格的に探偵物として続くのだと、少し期待している。
 
そして妻と娘とも別れて単身になった杉村だが、決してひとりぼっちではなく世話を焼いてくれるご近所の人たちや、喫茶店の店主、何よりも杉村の仕事を陰ながらサポートしてくれる男性がいる。様々な人たちに助けられながら、探偵として一歩ずつ成長していく杉村を見ていくのは、読者としての楽しみでもある。 
 
起こる事件は陰鬱なものばかりだが、下町の人情に助けられる杉村が描かれているので、読んでいる方もどこか安心していられるのは不思議だ。この作品には4つの事件が描かれているが、どれも様々な問題を抱えて孤独に生きている若者が犯罪を犯すストーリーである。どの若者の心情も、「そうだろうなあ。そんなこともあるよね」と、思わず納得してしまう。
 
本当に事件を起こしてしまうところまではいかないが、夢がかなわずに現実に押しつぶされそうになりながら、将来に希望を持つこともできないまま生きている若者たちが大勢いるのだろうなと思わせられる。この作品は、東日本大震災の前後の事件が描かれている。
 
あの地震は確かに未曽有の大災害ではあったが、関東から離れたところに住む私にとっては、どこかよそ事のように感じていた。しかし「二重身」を読むと、あの災害の大変さがひしひしと伝わってきた。地震の大きさもさることながら、その後安否不明になった人たちを捜し求めるが、どうすればよいのかと戸惑う人々の心情が実感を込めて描かれていた。
 
改めてあの震災の恐ろしさを思い知った。その「二重身」で描かれる事件の犯人は、東日本大震災の混乱を利用して、自分が殺した人を安否不明者にしまう。自分の望みが叶えられなかったから簡単に人を殺し、しかもそれを震災のせいにして、盗んだ高価な宝石を何食わぬ顔をして好きな女の子にプレゼントしようとする。若者に限らず、未来を見失った私たち自身を見るようで旋律を覚えた。
 
(60代女性)

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