読書感想文「理由(宮部みゆき)」

宮部みゆきの「理由」を読んだ。人間の一つ一つの行動には全て理由があり、推理小説においては特に重要な部分だと思っている。実際にニュースで事件が報じられると、人々がその理由を知りたがるだろう。私はこのシンプルなタイトルに惹かれた。 マンションの一室で起きた不可解な殺人事件の話である。殺害された人たちは家族のように思えたが、調べてみると家族ではなかった。マンションの立ち退きを引き延ばすために集められた占有屋だった。 現在、私は今のところ不自由なく生活している。もちろん平穏な生活はいろいろな努力や忍耐の積み重ねではあるが、「運」も大いに関係してくる。真っ当な努力をするにも、まずは努力できる経済的な環境、精神状態が必要だ。親の収入、両親や親子関係が良好だったかどうかは子供の精神状態にかかわってくる。 この殺人事件にかかわった人々は特に怠惰な気性からあくどい行為をしていたわけでない。マンションのローンを払いきれなくなっていた男は見栄っ張りな妻のため、その妻の要望に応えられる夫としてのプライドのために、身の丈に合わない高額なマンションを購入した。

妻が見栄を張りたいのは自己肯定感が低いからであろう。夫は妻に愛情が届かないならば物理的に満たそうとして家族の形を維持しようとした。 占有屋たちは、中年男性、中年女性、高齢の女性、青年の四人だった。中年男性は母親の忌まわしい過去のために愛されずに育ち、自身の子からも見下れていたので成功して見返してやろうと躍起になっていた。中年女性は愛情関係のもつれから、高齢女性は施設から外出中に、青年もまた家庭環境が影響して、みな行方知れずの身の上だった。青年は恋人との間に子供ができたが、自らの生い立ちから結婚する意志は薄かったところを、恋人と子供と人生をやり直すために奮起していた。 怖いと思うのは、みな誰かを傷つけて苦しめて楽しんだわけではなく、生活していくため、生きていくための当面の手段として選んだ道で起きてしまった殺人ということだ。人生は判断の連続、取捨選択の連続だ。いろいろな局面において、優先される価値観やそのバランスも変わってくる。誰だって愛されたい、認められたい、不自由なく暮らしたい。その当たり前の欲求が行きついた先の殺人だった。殺人に行きつくまでに、これほど様々な背景が絡んでいる。私も一歩まちがえば後戻りできずに悲劇を迎えることがあるかもしれないと思った。

 

(40代女性)

 

 

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