「この世の春」の読書感想文
私は時代小説が苦手です。時代小説はなんだか読んでいてもその風景やら人物やらが頭に入ってこないのです。もともと歴史そのものがあまり好きではなく、知識がないのが原因かもしれません。しかしそんな私が本当に面白いと思った時代小説が、この宮部みゆきさんの『この世の春』でした。
たしかに時代小説なのですが、サイコスリラー的要素や、ミステリー的な要素の方が強かったので、時代小説的な用語や時代背景が一切気にならず、最後まで一気に読み切ることができました。今までの時代小説のイメージを変えて、こんな時代小説もあるんだなぁ、と私に思わせてくれる作品となりました。
精神を病んでしまったかつての若い藩主、この元藩主を支え、献身的にケアをし、寄り添いながらその病んでしまった原因をさぐる人々。この小説の一番の面白さはその謎解きにあります。もちろんそこが話の幹なので、謎解きの部分でわくわく、どきどきするのですが、私が一番この小説で魅かれたのは、元藩主を支える周囲の人々でした。
元藩主のように精神を病みはしていませんが、みなそれぞれに生きる上で障害になるような辛い体験をしています。それでもなお、彼女らは前を向いています。自分を苦しめる闇と必死で戦いながら、自分の果たすべき役目をまっとうするために精一杯生きています。その健気さ、強さに私は惹かれますし、何よりも尊敬し、そして憧れを抱きます。
彼女らの強さや明るさがあったからこそ、陰湿な事件の謎解きの話であっても、何か希望があり、読んでいる側に嫌な気分を与えることがないのかもしれません。ですので、この小説の最大の魅力は、謎解きにあるのではなく、登場人物にあるのではないかと思います。
どんなに長い冬でも、どんな北国でも春はきます。すべての謎が解けたその先にには、長く厳しい冬に耐えた元藩主と、それを支えた人々に温かく穏やかな春が訪れます。この本を読見終えた時、まぶしくも温かい春の柔らかい日差しが見えたような気がしました。
(40代女性)
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