読書感想文「レベル7(宮部みゆき)」

記憶とは何だろうか。私には忘れてしまいたい記憶、忘れたくないのに風化していく記憶がある。物語は衝撃的な場面から始まった。自分は何者か、どこから来たのか、全く覚えていない男女2人が、マンションの一室で目を覚ますのだ。そして2人の腕に残る奇妙な、「レベル7」の文字。もうこの異様な状況から、一気に物語に引き込まれてしまった。明日も仕事だというのに、読むのをやめられそうにない。
 
2人は三枝という胡散臭い隣人と知り合い、彼の助けも借りながら、小さな手がかりを見つけては、失われた自分たちの記憶を追いかけることになる。改めて考えてみると全く理解不能で異様な状況だ。これは私だったらもはや冷静でいられないはず。こんな風に地道にコツコツ調べたりせず、記憶がないことにパニックを起こして精神科に駆け込んでいるかも知れない。
 
この二人の精神力に感心してしまう。先が気になるところで急に場面が切り替わり、電話での悩み相談室の女性が、ある女子高生みさおの話を聞くところから始まる。彼女は孤独で家に居場所がなくて危うく、フラフラしている。貧しさに喘いでいるわけでも、両親から激しい暴力を受けているわけでもなく、学校にはそれなりに友達もいる。
 
なのに、彼女はこんなにも孤独で、電話相談室に電話してしまうほど寂しがっているのだ。日本の子どもたちの約三人に一人が、孤独を感じているというネットニュースを思い出した。自分がどこにも属していない感じ、空中を歩いているような頼りなさ、そしてその孤独感はとてもよく分かる気がした。
 

 
 
相談員の女性、真行寺は彼女が何となく心配になって、現実でも会おうとするのだが、彼女は「レベル7」までいったらもう戻れないという謎めいた言葉を残して失踪してしまう。この2つのストーリーに共通する言葉は「レベル7」。一体何だろう、どこで繋がるのだろうと中盤以降のスピード感もあいまって、ページをめくる手が止まらなくなってしまった。
 
すべての謎が解き明かされていく中で、到底人間とは思えないようなゲスい黒幕が出てくるのだが、無事天誅が下されて読んでいてスカッとした。純粋に、エンターテインメント性の高い映画を観ているような感じがした。個人的には、夫を亡くした真行寺悦子がみさおを探さずにおれない心境に共感し、聞き込みの行動力に感心させられてしまった。
 
こんな風に心配に思って手を差し伸べてくれる大人もいることをみさおは知って、彼女の行き場のない孤独感も消えていくといいなと思う。彼女が助かったのは本当に運が良かっただけで、居場所のない女の子を飲み込む闇や犯罪は、どこにでも口を開けて待ち構えている。自分の娘たちが、この家には居場所がないと思うような寂しい家庭にはしたくない、と思った作品だった。
 
(30代女性)
 
 
 
 

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