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読書感想文「彼女のこんだて帖(角田光代)」

読書感想文「彼女のこんだて帖(角田光代)」

「彼女のこんだて帖」の読書感想文①

食べるということは、普遍であるように思えてなんて大切なことなんだろう。私は一日に少なくとも二回は食というものに接しているが、この本を読んで「こんなにも食に何かを感じ、愛おしく思ったことがあっただろうか」と自問した。
 
冒頭から、それは日常のよくあることを示している。恋に悩む女性達はそれが既婚であれ、未婚であれ、相手が長く連れ添った旦那だったり、短い期間の交際を経た彼氏だったりと様々だ。それでも、どっか既視感を覚えるような日常が描かれている。そこにはどこにでも溢れた人間関係が描かれているからだ。
 
彼にフラれて「ラム肉を食べよう」なんて、私は思ったこともなかったが、ぼんやりと去っていく背を見つめている経験はあった。あの時の哀しいような、寂しいような、だけど何処かで身体は軽くなったような感覚は確かに覚えのあるものだった。
まるでそんな自分の日常の一つを切り取ったかのように描かれる女性達の気持ちに深く共感してしまった。
 
この短編集の主人公の一人である立花協子は「必要経費だ、私が元気ニなるための」と言った。四年間も一緒に過ごした彼氏に別れを告げられて、折角の週末を思い出にひたって過ごすなんてごめんだ、という立花協子の痛烈な気持ちが刺さるかのようだった。ラム肉で、美味しいものを食べることで、好きだった相手との別れを払拭しようという試みに私は感動すら覚えたのかもしれない。
 
とっくに予算オーバーしている肉や調味料を「必要経費だ」と言い切るのは、なんとも清々しい。私は毎日を忙しなく過ごしている。嫌なことがあっても、彼氏に別れを告げられても、きっと次の日にはその重い気持ちを引きずって、忙しさにかまけてどんどん進んでいくだろう。
 
仕事をすれば心も身体も疲れてしまうし、誰かと縁が切れたらきっと身も裂けるぐらいに悲しいと思う。でもそれを見て見ぬフリをして、また日常のルーティンをこなしていくだろう。実際にそうやって生きてきた。
 
しかし、立花協子は違った。彼女は自分の身に起きた悲しい出来事に対しての疲弊した心を食というもので補給したのだ。食というものが、人の心に対しての栄養であり必要であることに、私は立花協子が彼氏と別れたにも関わらず、わくわくとした気持ちでラム肉を買う様を見て、まるで新世界を見たかのような気分になった。身近な食というもので、こんなに心が躍るのかという驚きだ。
 
美味しいものを食べるために金銭と時間を使うということ。それは自分の為だったり、誰かの為だったりするのかもしれないけれど、生きることと食事というものは、切っても切れないものだということを痛感した。
 
これからまた生きていく上で、日常で、おそらく様々なことが起こるだろう。それは大事故や大災害なんてものじゃなく、ただの日常にある些細なころばかりだろう。でもその日常の上を私達は生きている。そんな些細な日常の中で、心が疲弊してしまった時、私も立花協子やその他の女性達のように、美味しいものを食べてみようと思う。
 
(20代女性)

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