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読書感想文「紙の月(角田光代)」

「紙の月」の読書感想文①

暮らしていく上で、お金は欠かせないものだ。商品を買ったり貯蓄したりと、私はお金を生きていく手段として使用する。ところが、お金の使い方を間違えると、お金によって翻弄され、ついには自らの人生まで狂わされることがあるのだ。この作品には、3人の女性が登場する。ひとりめの主婦は、お金を貯めようと生活費を切り詰めて、節約生活をし始める。
 
はじめのうちは、ゲームの感覚でお金が貯まってくるのが楽しく感じられる。しかし、それが度を超してしまい、本来のお金を貯めるための目的から外れてしまうことになる。つまり、節約することそれ自体が、生活の上での目的になってしまうのだ。ふたりめの女性は、お金を使いすぎてしまった離婚歴のある女性だ。商品を買うことは、お金という交換手段を用いること。
 
好きなモノを現金やカードで購入する。お金を使っているわけだが、次第に商品を購入することよりも、お金を使うことそれ自体が目的になる。買い物依存の状態になるのだ。このこともまた、お金に翻弄された状態である。それゆえに、夫から離婚を切り出されてしまった。
 
三人目の女性であるこの小説の主人公である女性は、お金に翻弄され、次第に犯罪に手を染めていく。金融機関で働くこの女性は、年下の男性に貢ぐために顧客の定期預金などを横領するようになる。読み進めながら疑問に思ったのは、果たして彼女が、道ならぬ恋を楽しんでいたかということだ。
 
年下の男性の夢を応援しているのだと自らに言い聞かせて、貢ぐという行為に及んでいたとしか思えなかったからだ。つまり、他者の人生を支えていると錯覚しているのだ。そのように他者に対して献身的である自分に満足していたといえる。貢ぐことそれ自体が、彼女の目的だったといえる。
 
この作品を読んで、人生のためにお金があるのか、それともお金のために人生があるのかと、ふと考えさせられた。そして、お金がなければ生活が成り立たない消費社会のあり方にまで考えが及んだ。この社会構造のあり方は、お金が手段から目的へと転化してしまう危険性をはらんでいるのだ。お金が関係した犯罪は、このようなことが要因になっていると思えた。
 
お金が目的になったとき、私は、お金に従属させられてしまうのではないかと思った。お金は使うばかりではないし、過度の節約もまた、お金に支配された状態なのだと思う。しかし、お金が不浄なものであるわけではないとも考えている。人間の欲望が、お金を目的に変えてしまうのだろう。お金と生き方の折り合いをどうつけていくかは、お金に翻弄されないようにしっかりと考えていきたいと思った。
 
(40代女性)

「紙の月」の読書感想文②

ものすごく怖かった。なのに読むのをやめられなかった。映画化される程の話題作だったから、なんとなく粗筋は知っていたが、こんなに凄い小説だとは思わなかった。女性の思考回路を、ここまで生々しく的確に表現した小説は読んだことがない。事件を起こす主人公の梨花、彼女の突き進んでいく方向、その理由、凄く理解できるし、自分は絶対にそうならないとも言い切れない。
 
それ程リアルな心理描写、梨花に関わる亜紀や木綿子といった登場人物も、事件こそ起こさないが、心の中にある空虚さや闇は梨花と同類のものだ。彼女たち1人1人の状況も短いが深く丁寧に描かれていて、みんな身近にいてそうだ。誰もが何かと虚しさや淋しさを抱えていると思う。年齢を重ねれば重ねるほどそうなっていく。それが生きていくというものだと、しぶしぶ納得している。
 
だから、仕事に惚れ込んだり趣味を高めていったり、打ち込めるものを見つけて充実させたいと願うんだろう。この小説に出てくる人たちはどこで間違っているのかなと思っていたら、探していた答えになる一文を見つけた。『経済で何かを思い通りにできると無自覚に信じているらしいところが。』これじゃないか。よくテレビを賑わす人って「お金で何でもできる」みたいに報道されるが、大体男性だなと思っていた。
 
女性の場合「無自覚に」がポイントではないか。男性性と女性性の違いのような理屈抜きで。買い物依存症という言葉も一時期流行り、本もいろいろ出ていた。が、この一文が全てを言い表していると思う。私はどうだろう。虚しさを埋め合わすお金の使い方、どうやるだろう。
 
自分を着飾ることには興味ない。美しい体形を保つ為の時間・労力も惜しい。物で欲しいのは本だけ。本ならどんどん買い漁るかもしれない。でも本代で1億円使うのは難しそうだ。私ちっさいな!と自嘲する。ほんの少し、梨花を羨ましく思っているのかな…。梨花と私の違い、それは『本気で梨花は思っていたのだろう。この子に一生の重荷を負わせてしまったのなら、私はこの子の面倒を一生見ると、それが正しい行為なのだと、梨花は本気で。』というところだ。
 
私にはとてもこんな一途な覚悟はもてない。この真っ直ぐさが、梨花を行かせるところまで行かせたんだと思う。私とは違うのに、でも梨花や亜紀や木綿子の気持ちも理解できると思えるのは、同じ女だから。それだけかもしれない。とても説明出来ないが、女ならみんな「わかる!」と思うんじゃないか、いや、思ってほしい。自分にだけ心に暗い穴があいてるなんて思いたくない。
 
私に似てるなと感じる木綿子、最後に破綻が見えてきてたが、どうか踏みとどまってほしい。自分の暗い穴を「家族の為に」で埋めず、ちゃんと言葉にして伝えて、開放されてほしい。男性に女性たちの心理が、思考回路が理解できるのか?もし理解できているなら、離婚率はもっと下がると思う。読み終わったらクタクタに疲れてしまった。でも面白い。
 
(40代女性)

「紙の月」の読書感想文③

これはお金の話だ。顔立ちこそ美しいが、ごく地味で、ごく普通の主婦の梅澤梨花が、契約社員として勤務していた銀行から1億円横領した。その事件を中心として物語が進む。犯人の学生時代の同級生、昔の友人、元の恋人…その他様々な人々が梨花を思う。梨花の気持ちを想像する。彼女と自分は違う、彼女は自分と同じだったのではないか?なぜ?なぜ?なぜ?…事件への興味に引きずり込まれそうになりつつ、皆の人生は進んでいく。
 
読んでいる間、私は何度もはっとさせられた。これは私も経験したことだ!これも知っている!この気持ち!お金による万能感、分不相応な出費、お金の不足による髪をかきむしりたくなるような焦燥感、お金による自己肯定…私の毎日にお金はこれほどまでに影響を与えている。気付かないうちに、少しずつ、しかし確実に。作者は、倦んで行く日常、人の心の機微を淡々と、丁寧に描いて行く。そこには、いわゆる「誰にも言えないこと」が沢山ある。
 
10年来の大親友にも、寝食を共にするパートナーにも、血を分けた親兄弟にも言えない、絶対に言えないこと。秘密と呼ぶにはごく瑣末で、しかし心の大部分を蝕んで行くような言えないことの数々が、この小説のそこかしこに現れる。1億円の横領という大それたことをやってしまった梨花の生活にも、それを取り巻く様々な登場人物達の生活にも。
 
そして、誰にも言えないことは、お金にリンクしていく。お金が大切、お金なんて、お金さえあれば…元は違う悩みだったはずなのに、いつの間にかお金へと流れていく思考。目を逸らしたくなるように、お金に翻弄されていく人々を見て、私達はもう一度考えるべきかもしれない。お金を使うこと、稼ぐこと、お金が生むもの、失わせるもの…お金の後ろに隠した本当の気持ち。その本当の気持ちに気付いてあげられたら、何かを変えられるのではないか?読みながら何度も考えた。
 
お給料明細を見て、誇らしさを感じる。認められた気分。達成感。それ自体、何も悪くないことだろう。しかし、どうしてだろう?目に見えてやってきた満足感は、やがて不足感にすり替わる。高価な買い物、自分の価値まで上げてくれるような装飾品。これもまた、生活の潤いとして、私達にパワーをくれる。しかし、なぜだろう?すぐに古くなっていく。物質的な老朽化の何万倍のスピードで輝きは衰える。自分へ贈られる物、提供される食事、贈り主の愛情の証の様に感じる。高価であればあるほど、
 
自分は相手にとって価値ある人物なのだと伝えられている様に誇らしい。しかし、なぜだろう。そのうちに、力を失くしている自分に気付く。愛さえ疑い始めている自分に。お金が与えてくれる高揚感。その裏には、自分を否定する声が響いているのではないか?
 
お給料で評価してもらわないといけないような、装飾品で底上げしてもらわないといけないような、贈り物として証明してもらわないといけないような、価値のない自分。ダメな自分。そんな自分への否定の言葉を、普段気付かないうちに、我々は、自分自身へ投げ続けているのではないだろうか?
 
今日からは、給与明細を眺める時、財布を開く時、デパートで贈り物を物色している時、楽しんでいるつもりで自分を虐めていないか?振り返ってみようと思う。梨花の様に大切なものを見つけられないまま失ってしまうことのないように。消費社会に生きる私達。買い物依存、ギャンブル依存、仕事依存など社会の大きな問題となっている現在、この小説を読んで、今一度、自分とお金の間に潜む罠について、考えてみるのもいいのかもしれない。
 
(30代女性)

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