「森に眠る魚」の読書感想文
子育て世代、特に幼稚園時代の話に焦点があてられている、母親達の物語。タイプの違う母親たちが、小学校受験を通じて、だんだんとすれ違い、その関係が壊れていく過程は、本当にちょっとしたボタンのかけ違いだろうと思った。母親は、もはやひとりの人間ではなく、子育て世代においては、子供という別の人格をとうして評価されてしまう存在。また、旦那という付加価値もしくは損益をもたらす存在によっても、容易に変わる立場。
本当に生きづらいと思った。私自身も、この小説に登場する人物に、自己投影をして、グイグイと引き込まれるように読んでいた。周りのお母さんが何をしているか気になって仕方がない。そんな誰にでもあるであろう、弱い部分が見事に表現されていて、そこに自分がいるかのように感じてしまった。小説は、幼稚園を卒園し、バラバラの小学校に行くところで、終わる。一人の母親は、受験から解放され本来の自分に戻り、また、他の母親は田舎に帰る。
更に別の母親は二人目を産み強くなる。受験に成功した母親は、一人暗闇から抜け出せない印象があった。どの母親が幸せなのかは分からない。しかし、幼稚園という独特の閉鎖的な空間から抜け出すことで、自分らしく生きられるようになったのだと信じたい。最後の受験に成功したが、暗闇にいる母親は、小学校でも同じような体験をするのだろうか、と読んだ後も想像が絶えない。果たして、彼女たちにとって、私自身にとっても幼稚園とはなんだったのだろうか。主役である子供にとっても。親子ともどもに濃密な時間を過ごす幼稚園時代。
本来は子供のために幸せであるべき時間のはずなのに、親は子供を所有物として、色眼鏡で見て、競争相手に仕立て上げる。全ての幼稚園がそうとは言わないが、少なからずともそのように感じる母親は多いのだろうと感じた。そして、このような小説を読む事で、私が一人偏った見方をしていないのだと安心もした。幼稚園という名の牢獄。できれば戻りたくない、そして自分の子供にはそんな思いはさせたく無い、と強く感じた。
(40代女性)
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