「八日目の蝉」の読書感想文①
身も蓋もない言い方をしてしまうと、主人公はこんな男のどこが良かったんだろうと思ってしまうような相手の男(不倫相手)だった。しかしこの物語の主人公は希和子を始めとする「女」達であり、彼女達の中にある醜い部分を表面化したものだったように思う。
と同時に美しさの部分も上手く描かれていた。犯罪であることは逃れようのない事実だが、希和子と恵里菜の間には血の繋がり以上の絆が確かに存在していたし、その事実は恵里奈が大人になり、自分が身籠った時に本当の意味でその絆の尊さに気づくのだ。
しかし恵里菜も祝福されない妊娠をしてしまうあたり、まさに同じような人生を歩んでしまった希和子との絆が描かれていたように思う。これが実母である妻の恵津子がもっと良いキャラクターで登場していたら、希和子を応援する目線にはなれなかっただろう。
読み進めていくうちに捕まらないで、うまく逃げてくれと思ってしまったのは私だけではないであろう。それ以上に2人が似ているなと感じたのは、相手の男への愛情はどちらも無かったのではないかという事である。
ただ自分の中にある孤独や、周りとは違うという疎外感のようなものを上手く包み込んでくれた相手のだったのだろう。妊娠がわかっても金を要求する訳でもなし。同じ女から見ればなんと男にとって都合の良い女なのだろうか。
この辺りは個人的には共感は得られなかった。希和子の逃亡先で出会う、中村とみ子という登場人物からも親子とは何かを考えさせられる存在であった。血の繋がった本当の娘からもほぼ捨てられた状態になっており、それでも母子手帳は後生大事に持っている。
心のどこかではもう壊れてしまった娘との関係をまだ期待しているのだと感じた。だから希和子をかくまったんだと思うし、娘と重ねて見ていた部分もあったのだろう。あまり大部分の登場ではなかったが個人的には印象に残ったのが彼女だった。
優しさをうまく表現出来ない性格も好感が持てた。エンジェルホームという団体もリアリティがあり、実際にあるどこかの団体をイメージして描かれたのかと感じた。
私は北海道在住なので函館のトラピスチヌ修道院を想像してしまったのだが、個人的な財産をすべて手放させる、就学の義務がある子供達を学校に行かせず独自の教育法で育てる等、カルト宗教団体の集団生活の匂いがプンプンするのだが、逃亡中の身であれば格好の身の置き場になったのもうなずける。
やがてそこからも逃げなければならず逃亡生活は続くのだが、最終的に逮捕の決め手となった写真が薫と2人の親子写真というのがなんとも切なかった。作品を通して、人生のほんのあるひと時を一緒に過ごした影響がここまで出るものなのかと感じた。
それは人格形成に多大な影響を及ぼす時期だったからだとも思うが、希和子は間違った、でも真実の愛情を薫に注いでいたからこその結果であったように思う。
(20代女性)
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