読書感想文「ICO-霧の城-(宮部みゆき)」

この物語は、ひとりの少女とひとりの少年による脱出劇である。城に囚われた少女ヨルダと、城への生贄としてやってきた少年イコが出会い、城からの脱出を試みる物語だ。序盤、ヨルダと出会ったイコは、彼女を連れての城からの脱出を決意する。

 

言語の違いから二人は会話での意思疎通はできないが、身振り手振りでお互いの気持ちを表現するのだ。そこが歯痒くも素敵な点だと私は思う。時にヨルダはイコの思い通りに動かないときがある。彼女なりの考えがあってのことなのだが、言葉が通じずイコはモヤモヤとするのだ。

 

しかし、よくよくヨルダの目線の先や指差す先を見てみると、脱出に必要なものが見つかる。そこでイコはやっと彼女が言いたかったことに気付くのだ。ペラペラと会話をしてすんなり物語が進むものよりも、こういったちょっとした引っ掛かりがあった方が読んでいて楽しいと私は思う。

 

 

 

物語の中頃で、ヨルダは城にとって大切な存在であることをイコは知る。城の主であり、ヨルダの母でもある女王と対峙するのだ。そこで女王はイコにヨルダを置いてこの城から立ち去るように命じるが、イコはそれに応じることなく、むしろヨルダを連れて城を脱出すると決めるのだ。

 

ここではそれまで力強くヨルダを引っ張っていたイコの弱々しい姿が見られる。城の主である女王の力は、イコの体と心の両方を痛めつけるのだ。文中にも『羽虫でも追い払うかのように』とあり、いかに女王の力が凄まじいかを表現している。

 

女王が去った後、イコは再びヨルダを連れての脱出を続けるのだが、今後、あの女王に対してどのように対抗していくのかが非常に気になった。この場面を読んだ私は、この物語により深く入り込んだような気がしたのだ。

 

物語の終盤で、それまで静かに進んでいた物語が一気に盛り上がった。女王がヨルダを連れ去り、イコは心が折れそうになるのだ。イコはヨルダを連れて行くことを諦めかけるがそれはできず、女王を倒すことを決意する。ここまで緩やかだった物語の流れが、突如、激流のようになったのが印象的だった。

 

イコが女王と対峙する場面では、この物語の中で一番の盛り上がりを見せる。動きのある文が次から次へと書かれていて、まるで目の前で戦いが繰り広げられているような、そんな感覚があった。

 

そして、この物語で最も印象的だったのが、イコが女王を倒した後だ。女王が倒れ、力を失った城が崩壊するのだ。この場面では、まるで城そのものが生きているような表現が連続している。数多の広間で、石を積み上げられた壁という壁が、そっとため息をついた。という一文が特に印象深い。

 

城の崩壊後、城から解放されたイコとヨルダは再会を果たすのだが、記憶が曖昧になっている。それでも二人は手を取り再び歩き出し、物語が終わるのだ。この本を読み終えたとき、まるで息ができない水の中からやっと海面に顔を出したような、異世界から現実に戻ってきたような不思議な感覚だった。

 

(20代女性)

 

 

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