読書感想文「下町ロケット ゴースト(池井戸潤)」

『下町ロケット ゴースト』は、10月スタートのドラマ「下町ロケット」の前半の原作本である。この作品は、次の『下町ロケット ヤタガラス』の導入という色彩が強いと感じる。なぜなら、読後に池井戸潤作品らしい爽快感が得られないからだ。物語は、佃製作所が大口取引先のヤマタニから発注を減らされるというトラブルから始まる。

 

佃は、とあるきっかけで佃製作所の作成した小型エンジンを搭載したトラクターに乗り、乗り心地を左右するのがトランスミッションだと実感する。 そして、トランスミッション作りを始める手始めとしてバルブの開発に着手する。そこで挑戦したのが、ギアゴーストという企業のコンペだった。佃製作所はコンペに勝ち、受注を獲得する。

 

 

 

しかし、ギアゴーストは他社から特許侵害を申し立てられ、佃たちはその争いに絡んでいく。ギアゴーストの事件は、佃製作所の協力で解決するが、ギアゴーストの社長の伊丹は、勝訴を勝ち取った直後、佃製作所の競合企業のダイダロスと業務提携をしてしまう。

 

ギアゴーストの副社長の島津は、伊丹のやり方を非難するが、伊丹から解雇されてしまい、その旨を佃に伝えて立ち去る。『下町ロケット ゴースト』は、島津を見送る佃を描いて終わる。なんとも後味の悪い終わり方だ。なぜ、伊丹が豹変したのか?伊丹の変貌の理由が、本作品だけでは今ひとつ納得できないため、6年近く苦楽を共にした島津を切る伊丹の非情ぶりが不気味に感じられる。

 

伊丹も島津も、過去に帝国重工からひどいあしらいを受けていた。若い情熱が組織の理屈に潰され、才能が埋もれさせられてしまっていた。ただし、伊丹の場合は、それだけにとどまらず、自分が加害者の一員になったという自責の念もあった。伊丹は、帝国重工の下請け企業の倒産の引き金を作ったのだ。

 

その自責の念の重さゆえ、自分を裏切った的場に憎悪をぶつけているのが伊丹という男である。伊丹は、重苦しい過去を持つという印象を初対面の佃に与えている。しかし、その内面により深く踏み込むのは、『下町ロケット ヤタガラス』に譲られ、本書では、佃の印象が人物造形の根幹をなすものとなっている。

 

消化不良の感をあえて残しているのが、『下町ロケット ゴースト』の狙いだろう。次を是非読みたいという思いを掻き立てられるのが、本作品の特徴である。

 

(50代女性)

 

 

 

 

下町ロケット ゴースト

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