読書感想文「溺レる(川上弘美)」

2002年に発売された川上弘美著の短編集です。表題作の「溺レる」を始めとして、どこか浮世離れした、そしてあやしい男女関係を描き出した短編8編が収録されています。表題作の「溺レる」では、中年男女がアイヨクに溺れ、逃避行を続ける姿を描いていますが、男性の方はいつもどこかとぼけています。

 

きっと社会からはみ出し、およそ成功とは程遠い人生を送っているようなそんなさえない中年男です。また女性の方も地に足のついていない、そしてきっと幸の薄い中年女性です。そんな頼りない二人の、そしてなんとも不思議な逃避行生活が描かれています。

 

 

 

この作品のおもしろいところは、日常社会から逃げ出し、家族も社会的な地位や責任も全て投げ出して逃げているそんな深刻な状況の二人の物語なのですから、作者の書き方次第では、もっとドラマチックになったり、悲哀あふれる大人の恋愛小説とでもなりそうな感じですが、そこはやはり川上弘美さんの作品ならではです。

 

全体的に現実離れし、それでどこかとぼけていて、何か不思議の世界にいつの間にかいざなわれているような、そんな感覚に陥ります。川上弘美さんのこの独特な世界観は、なんとも言葉で言い表せず、きっと読んだ人でないとわからないと思いますが、読み手によっては好き嫌いがはっきり分かれると思います。

 

特にこの「溺レる」は、川上弘美ワールド全開ですので、最初の一作目から苦手と思う人はそこでやめてしまうでしょうし、気に入った人は、最後まで一気に読み進めてしまう作品と思えます。私は、以前より彼女の作品が好きなので、この「溺レる」に出会えて、本当によかったと思っています。

 

かなり前の作品なので、なぜ今まで読んでいなかったのだろうと後悔をしています。表題作の「溺レる」も好きですが、私が一番好きだったのは「百年」という作品です。こちらもこの世に漂いながら暮らしている中年男女のお話です。他の6編についても作品の雰囲気やパターンは似ていますが、どれも秀作と思いました。時にはせかせかした日常を離れ、本の世界の中だけでも、少しは世俗を忘れたい方には、この作品は大変お勧めできると思います。

 

(50代女性)

 

 

 

 

溺レる (文春文庫)

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