「ガリレオの苦悩」の読書感想文
主人公の帝都大学理学部准教授である湯川学が、大学時代の恩師である友永幸正の自宅に、他の教え子たちとともに招かれる。しかしその夜、友永邸の離れで火災が発生。焼け跡から、友永幸正の実の息子邦宏の刺殺体が発見される。
気になるのは、邦宏の身体を貫通した謎の凶器…この正体に気づいた時、湯川は犯人が友永幸正であると知るが…なぜ友永幸正は実の子を殺害したのか。幸正には、妻が引き取り別居していた息子・邦宏が遊びで作った借金を返済し、自宅に住まわせた経緯がある。
ところが、邦宏はそんな父に感謝するどころか、その後は父の財産で贅沢三昧し、周囲の住民に迷惑をかける救いようのないクズと化してしまう。
作中で、友永幸正は湯川に、「科学者は、自分が積み上げてきたものに自信をもつと、自分の積み上げたものに疑いが生じても、それまでの功績に縛られてしまい、壊すことができなくなってしまう」と語るシーンがある。
これは科学者としての対話のワンシーンだが、読み返すと、幸正が邦宏に対する接し方を悔いていたことに通じるていたのではないかと思わずにはいられない。
友永幸正が邦宏を住まわせた理由は、おそらく、これまで愛情を注ぐことが叶わなかった邦宏に対する罪悪感からとった行動だったのだろう。
そして幸正は、邦宏の行動に疑問を感じながらも、それが親のとるべき行動だと信じ、邦宏を許し続けたのだと思う。
このシーンは、邦宏を変えることができなかった自分や、親としての務めであるという建前を理由に、邦宏の人格問題を先送りにしてきたことへの後悔がにじんでいると感じた。
結果、幸正は親の責任とし彼を自らの手で殺害してしまうのだ。幸正の犯行を見破り事件は無事に解決、とここまでなら、よくあるドラマだ。しかし東野圭吾はこれを実の親子間の愛憎劇で終わらせない。ラスト数ページで、とんでもない種あかしが行われる。
友永幸正が殺人を犯したのは、本当は何のためだったか、そして自身の科学技術をなぜ殺人に使用したかが明らかになるのだ。この理由を知った時、友永幸正という不器用な科学者が、精一杯の愛で自分の人生を懸けたものが見えてくる。
科学者らしい聡明さと細やかな人間の描写に、初読時は驚きと感動でしばらく固まってしまうに違いない。真実を知った後、必ずもう一度読み返したい。
(30代女性)
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