読書感想文「ウォーターゲーム(吉田修一)」

「太陽は動かない」「森は知っている」に続く鷹野一彦シリーズの3作目である。正直、書評やネットのレビューの評価は芳しくないが、私は面白かった。「水道事業民営化」を巡る利権争いが発端の九州でのダム爆破テロからスタートし、息もつかせないテンポで、話が展開していくのは、前2作と同様である。
 
そんな中でも、作者の特徴でもある、何気ない日常の風景やちょっとした気持ちの動きが差し込まれており、災害で被災した街の疲労感や東南アジアの暑苦しい夜などをリアルに感じながら読んでいくことができた。第1作では、有能でパーフェクトな産業スパイとして、第2作では、ギラギラして汗臭い高校生として、描かれた鷹野一彦が、今作では、有能なスパイでありながら、人間らしい一面を垣間見せてくれていた。
 

 
 
特に行方不明だった旧友の柳との再会し、行動を共にしだしてからは、ますます、私たちと変わらない等身大の30代の男として描かれており、とても親近感を感じることができた。そんなこともあり、鷹野が田岡に「必ず突破口はある。中略。よく考えるんだ」と伝える部分は、妙に納得できた。特殊な訓練やいくつもの試練をくぐり抜けてきているけど、やはり同じ生身の人間なんだと思えた。
 
風間が病気で衰弱し、鷹野が年齢を重ねて、少しずつ良い意味での精神的な丸みを帯びてきて、同時に部下の田岡が鷹野の後継者として逞しく成長するなど、「太陽は動かない」からの時の流れや老いを感じられた。特に記述はなかったが、鷹野一彦シリーズはなんとなく終わりなのかなと思わせるような空気感で物語は終った。作者の特徴で、明確なハッピーエンディングではないが、ほんのりと明るい未来を予感させるエンディングだった。
 
まもなく35歳を迎え、胸の起爆装置を外すことが許された時に、鷹野は誰とどこに行くのかと想像を膨らませてしまう。確かに設定は古いし、やや強引な展開もあるし、前2作と比べて、サスペンスにもヒューマンドラマにも振りきれてない中途半端な作品かもしれないが、今まで以上に鷹野に親近感を感じることができた。そしてその中途半端さのおかげで、リアリティを感じたのではないかと思う。
 
(40代男性)
 
 
 
 

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