読書感想文「優しいおとな(桐野夏生)」

桐野さんの作品を読んでいつも驚く事は、本の中で起きている事が何年か経って本当の現実になる、という事だ。 OUTが発売された時にも、普通の主婦が深夜から早朝まで工場で働くなんてとても信じられない、と小説だけの世界だと感じていた。当時の書評でも、そのような意見が多かったように思う。
 
ところがあれから20年近くが経ち、家計のために子供が寝静まった後、主婦が外へ働きに出るという事は決して珍しいことではなくなった。 優しいおとなも、ずっと地下に住んでいる人がいたり、子供だけでホームレスのように過ごしていたり、ああこれが現実にならなければ良いなと思いながら読み進めた事を覚えている。
 

 
 
ところが、ニューヨークでは地下に住む人がいるのが当たり前になりトランプタワーの地下も縄張り争いがあって常にホームレスがいるのだとか。東京の地下も、地下と地下はそれぞれ繋がっていて地下鉄のホームからホームまで移動できると聞いた事がある。もしかしたら既に地下で暮らしている人もいるのかも知れない。
 
また、貧困の格差や母子家庭の貧困化などにより、ホームレスまではいかなくとも行き場のない子供達がたくさん溢れている状況は、小説が現実になったことの一つである。都会の方が、そのような子供達が増えている。学校が夏休みになると給食がないためお昼ご飯を食べられずにお腹を空かせる子供も多いと聞く。
 
放課後のケアや学童保育サービスなどの一部の「優しいおとな」によって支えられている状況だ。今後、「優しいおとな」よりも問題を抱える子供の数の方が多くなった時、小説のように子供達だけで空き家を転々としながら生活したり、シングルマザーが集団で公園を占拠して暮らしたり、という事が現実になるかも知れない。
 
小説の中では、「優しいおとな」を偽善と捉えている子供の心理描写が多くあり、でもその偽善でも必要なんだ、という事が訴えられていた気もする。行政が貧困問題や教育に関して機能しなくなった場合、私たちが自分で「優しいおとな」を目指すしかないのかも知れない。しかし、それに最初から頼る国にはなって欲しくはない。
 
(30代女性)
 
 
 
 

優しいおとな (中公文庫)
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