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読書感想文「ポイズンドーター・ホーリーマザー(湊かなえ)」

「ポイズンドーター・ホーリーマザー」の読書感想文①

湊かなえの小説を一度は読んだことがあるならわかってもらえると思うのだが、ある意味期待通りに期待を裏切ってくれるストーリーばかりである。テンポの良い短編小説が連続しているので、一晩で一気に読み切ってしまった。湊かなえの短編を読むのが初めてだったので、もっと読みたいのにもう終わりか、と物足りなさを感じてしまった。
 
それぞれの話をもっと深く読みたいと思うほど、引き込まれる話たちであった。その中で、タイトルにもなっている、母親と娘を書いた「ポイズンドーター」と「ホーリーマザー」は、2本立てのため読み応えがあった。ポイズンドーターとホーリーマザーの順になっているのが、素晴らしいと感じた。ポイズンドーターを読んでいる時は、娘の視点で過去を振り返る。
 
娘と一緒に「毒親」の姿を見ることで、親に対するうっとおしさを追体験した。自分も親にあんなことを言われたな、こんなことを言われたなと思い返し、子供にとって親の影響とは大きいとしみじみ感じた。自分は子供に好きなことをさせてあげたい、子供の意思を尊重してあげたいとすら思った。
 
物語の最後は、短編ということもあってかあっさりと終わったな、という感じであったが、続けて「ホーリーマザー」を読むと、視点が反転する。種明かしのように、母親の真意が語られ、さっきまで「悪」だと思っていた「毒親」に対する考えが変わった。母は娘を愛し、必死で守ろうとしていた。自分のような思いをしてほしくない、辛い目にあって欲しくない。
 
だからこそ毒親と言われるような行動をとっていた。自分が「母親」だったとしたら?と思うと、きっと同じ行動を取ってしまうと思った。子供を守りたいがためにきつく叱ることもするだろう。親として、当然のことだとすら思う。娘と母親、両方の視点から物語を読んで、どちらにも共感できる部分があった。
 
だからこそ、親とはどうあるべきなのか?小説を読んで数日経つが、いまだにぼんやりと考えている。後味が悪い、というよりは心に残る、考えさせられる作品であった。
 
(20代女性)

「ポイズンドーター・ホーリーマザー」の読書感想文②

母親が娘を支配するパターンは大きく分けて二通りある。自分が成しえなかった幸せを娘には与えてあげたい、というパターンと、もう一つは自分が手に入れられなかった幸せを娘にくれてやるか、というものだ。この本は毒親といっても前者なので、同じ親として私はこの母親を擁護したい。親なら誰でも子供の幸せを願うものだ。
 
そしてその基準は、自分が歩んできた人生から推しはかって見当をつけるしかない。自分の失敗を娘が歩まないように、といった行動を取るのが毒親というのであれば、一体、子供の幸せをどう望んだら良いのだろうか。これまでの自分の人生の失敗は、子育てに何も役立ててはならないのだろうか。 問題なのは、後者のもう一つのパターンの方だ。
 
これは私の実母にあたる。娘の若さ、幸せに嫉妬して邪魔をしてくるのだからタチが悪い。しかも自分では気づいていないのか、娘の幸せを願う良い母親と思っているのだ。自分よりも良い結婚相手を連れてきたら反対するし、自分よりも幸せな子育てをさせてたまるかと、孫の世話は一切しない。今でも、会えば私が一方的に愚痴を聞く係で、完全に立場が逆転している。
 
幼い頃から、女の子らしい可愛い洋服は着せてもらえなかったし、褒められたり励まされたりといった記憶もない。 この本での母親は、幸せになってもらいたいという一心で女手一つで娘を育てあげたのに、その娘から毒親とテレビで言われ続けたのはさぞ辛かっただろう。決して娘の成功に嫉妬していたわけではないのに、母と娘というのは難しいものだ。
 
同性なのでシンクロしやすいのが問題なのかも知れない。幼少期には母親を頼らざるをえないので、お互いに依存状態に陥りやすいのだ。主人公が母親をバッシングするたびに、私の心は複雑だった。読み進めるごとに、「幸せを望まれているのだから良いじゃないか。」と思わずにはいられなかった。
 
自分が実母に「幸せを望まれていない。」という現実を叩きつけられているかのようだった。自分ではどうしてもそうハッキリと認めたくはなかったからだ。 主人公がいずれ母親になったとき、自分の行いをどう感じるのかが知りたい。完璧な親などいないし、自分を常に良い方向に導いてくれる存在でもない。結局主人公は、可愛がって育てられたゆえに、母親に甘えて「毒親」などということができたのだ。
 
(30代女性)

「ポイズンドーター・ホーリーマザー」の読書感想文③

殺意や悪意を心に抱きながら、私達は日々暮らしている。6つの短編小説が納められた本書を読み終えてそのことが心に残った。いずれの作品も、今現在の世の中にありそうな設定、人間関係で、関わりのなかで生まれる怒り、憎しみの感情がとてもリアルに感じられた。殺意はどんな関係の中にも潜んでいるかもしれない。
 
そう思えて少し怖くもあるけれど、なぜか読むのを止められなくなった。怖いけれど、知りたい、のぞき見たい。それはもしかしたら自分の心の中にある不の感情で、この世の中に蔓延しているものの正体。そう思えた。 一話目の「マイディアレスト」は母親に厳しくしつけられてきたと感じている姉が主人公だ。
 
六歳年下の妹は母親から甘やかされ、自由に育てられ、その差に怒りを感じている。そして、妹が姉の自分を見下したな態度をとることに深く傷つき、怒りを募らせているのだ。しかし、表面上の姉はとてもおとなしくて、真面目な人間だ。そんな姉が妹を手にかけると言うストーリーは恐ろしさもあるけれど、なぜか姉に同情したくなるような気もしてくる。
 
したことは悪いことだけれど、姉ばかりを責める気持ちが湧かない。むしろ、自分だって、この姉の立場なら、そんなことをしてしまってもおかしくない。殺人犯に共感するなんておかしいと分かっていても、どこか切り離してみることが出来なかった。 2作目は脚本家たちの物語だ。脚本新人賞に応募して最終選考に残った3人が織りなす物語だ。
 
候補としてノミネートされていながら、最優秀賞をのがした主人公の漣涼香は最優秀新人賞を受賞した大豆生田薫子をライバル視し、苛立ちを募らせる。嫉みの感情があからさまに思えて恐ろしいほどだけれど、これもまた、どこか憎めないから不思議だった。 こういうことってあるだろうな。おぞましい感情なのに、身近に思えた。
 
そして、この本のタイトルにもなっている最後の2作品、最初は「ポイズンドーター」といって、娘を自分の思い通りに育てようとする毒親に長年苦しめられてきた女性の物語。地元を離れ、一人暮らしをしていた女性の元にクラス会の連絡が入る。けれど、母親に会いたくない女性はクラスメイトに断りの連絡を入れると言うはなしだ。
 
この話は最後に収められた「ホーリーマザー」という短編と対をなしている。「ホーリーマザー」では、「ポイズンド―ター」で主人公だった女優の弓香の元クラスメイトである理穂の目線から語られる。弓香が毒親と思っていた彼女の母親がこの話の中ではけっしてそんなことはない、普通の人とて語られる。
 
立場や見る角度を変えると、人との関係はこんなにも、解釈が変わるのかと驚かされた。毒親という言葉も最近よく聞かれる言葉だが、果たして本当に毒親なのかどうか、単純に誤解なのかもしれない。そんなふうにも思えた。 どの作品も、ドキドキしながら読みすすめられたし、殺意を抱く者への共感すらも感じた。
 
それはこの本に書かれたことが真実だからだろう。しかし、一方でこの危うい人間関係が今の世相を反映しているように思えて、悲しく、さびしくもなった。おおらかな気持ちを抱いて生きるのは難しいことだけれど、折れないしなやかさや優しさ、そういう人間の姿も見たいと思う気持ちも読後に湧いてきた作品だった。
 
(30代女性)

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