「マリアビートル」の読書感想文
物語は、東京から仙台までの一台の新幹線の中で展開していく。一つのトランクを巡るてんとう虫、みかん、れもんの攻防と、中学生である王子と木村のやりとりが大きな2つの主軸となり、それらが互いに絡み合っていく。特に印象深いのは、王子という巨悪の存在だった。中学生であるにもかかわらず、すべてが計算ずく。人を自分の支配下におくことに長けており、平気で友達や小さな子どもに危害を加える。
世の中にただしいことなどない、ただしいことを言っていると思わせたほうが勝ちだ。最初に否定的な意見を述べることで、こいつは物事を知っていると思い込ませることができる。など、日常生活でこの人は信用できないなと思っている人の特徴が集約されたかのような考え方をする少年だった。自分はそうなりたくないと思いつつ、社会で生きていく上では多少なりとも必要な力なのかもしれないと、考えさせられる物語でもあった。
王子は、出会う大人に、「なぜ人を殺してはいけないの?」と問いかける。人々は皆、王子を満足させる回答ができずにいる。この質問も非常に考えさせられる言葉だった。こう答えたら王子は満足するのだろうか、などと考えながら読み進めた。また、一台の新幹線の中で物語が展開していくわけであるが、出てくる登場人物の出会い、伏線の回収は他の伊坂作品同様見事である。
主人公であるてんとう虫は、非常に運が悪く、大事な場面で常に失敗を繰り返すが、防衛能力が高く、追い詰められたときの頭の回転が非常に早い。お人好しで、王子が悪であることに最後まで気づかなかった、唯一の登場人物でもある。このような、ドジで運がないが、人を疑わずに生きていける人間でありたいと思わせる人物であった。
(20代女性)
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