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読書感想文「火星に住むつもりかい?(伊坂幸太郎)」

「火星に住むつもりかい?」の読書感想文

この物語はとてもリアリティのあるファンタジーだと思った。危険そうな人物は拷問にかけられ処刑されるという恐ろしい設定があるが、読んでいくとなるほど、「あり得るかもしれない」と思わされるのだ。
 
平和を守る為の「平和警察」の存在が、その平和を一番脅かしているという矛盾。しかしそれに気付かないで、というよりも当然のこととして受け入れていくしかない人々が描かれているのだが、ここに非現実的とは言い切れない恐ろしさがある。実際、多数派こそ正義となってしまう世の中だ。
 
一度ムードが出来てしまえば、本来なら間違っていることでも正しいこととして浸透してしまうに違いない。魔女狩りというキーワードが出てくるが、古い話では全くなく、むしろ昔よりも今のほうが魔女狩りのような状況ができやすいのではないだろうか。 
 
ネットやマスメディアによって、様々な情報が一気に流れてしまう今、大勢が敵とみなした人物が、処刑はされないまでもいろんな意味で破綻させられてしまうのは現実にあることだからだ。読みながら思わず、この現実世界は本当に大丈夫なんだろうかと疑いを持ってしまう。気づいていないだけで、異常な状態になってしまっているんじゃないか…。
 
本の中でその異常な状況に気づき対抗しようとする人々が出てくることや、さらにそれを潰そうとする権力にもリアリティを感じ、自分の中で現実世界とリンクしてより物語に引き込まれた。少数派は生きにくい、そして攻撃されるという常識。物語の中だけでなく、自分のいる現実を考えさせられるために、独特な怖さがあるのかもしれない。
 
しかしその怖さだけで終わる作品ではなかった。少数派の活躍が素晴らしいのである。「正義は勝つ」と信じられない世の中でも、正義を貫けば何か変えられるかもしれない。いや、本当の正義に気づくことさえできれば、少数派が多数派になり、世の中が変わっていくのかもしれない。最後にそんな希望も持たせてもらった。
 
(30代女性)

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