読書感想文「アヒルと鴨のコインロッカー(伊坂幸太郎)」

伊坂幸太郎さんの小説の魅力といえば、登場人物の心をつかんで離さない不思議な発言の数々である。同著者の他作品である「ポテチ」では自殺を試みる女性を止めるために「キリンに乗っていくから。」という登場人物の発言がある。どうしてこんなに魅力的な発言が思いつくのだろう。凡人には叶わないな、といつも痛感させられる。この「アヒルと鴨のコインロッカー」という作品で、魅力的な発言といえば何といっても「神を閉じ込めに行こう。」だ。

 

これは、登場人物の河崎がボブ・ディランの声は神の声だと言っていたことが伏線となったものであるが、登場人物の心情を鑑みると心がジーンとするのだ。あらすじとしては、地方から引っ越してきた大学生、椎名が主人公だといえるだろう。椎名はボブ・ディランの風に吹かれてが歌える男だ。椎名がその曲を歌っているとアパートの隣人が話しかける。隣人は河崎と名乗る男だ。

 

その男は恋人を殺された男で、故恋人との思い出の曲を歌う椎名に驚き、話しかけたのだった。そして椎名に「広辞苑を盗みに行かないか」と提案する。椎名は流されやすい性格のようだ。そのため、その計画に加担することとなるが、河崎と名乗る男は河崎ではなく、その計画も恋人の復讐計画だった。

 

伊坂幸太郎さんのいつもの作品同様、この作品ではどんでん返しが待っている。次の展開が予測できなくてハラハラし、とても面白い。また、伊坂幸太郎さんの作品には必ずと言っていいほど惨いほどの残酷な描写がある。この作品の中では間違いなくペット殺しの描写だ。目を背けたくなるほどリアルなものである。

 

この残酷な描写が作品の幅を広げる役割に一役買っていることは間違いないだろう。読者が残酷なことを行う人間か、正義を追い求める人間、この両極端の人間のどちらに心情移入するのかは分からない。どちらにも、心情移入可能だからだ。私は残酷な人間の方に感情移入してしまった。社会への、もしくは周りの環境へのどこに向かって発せばいいのか分からない怒りをペットに向けてしまったのだ。

 

しかし、生き物を殺していいわけがないことは分かっている。だから、いつもこの場面まで小説を読み進めたら怒りをどこに向ければいいのか、困惑してしまうのだ。これは、ペット殺しという悪役の心情も配慮して作られた作品だからではないだろうか。次は、河崎に心情移入して読もう、と何度でも違う視点で読めるから素敵な作品だと思った。

 

(10代女性)


 

 

 

 

「一緒に本屋を襲わないか」という突拍子もない誘い文句から始まる一冊の辞書を強奪する本屋襲撃事件。「アヒルと鴨のコインロッカー」は僕こと椎名と私こと琴美という現在と過去の事件を紐解いていく二人の視点が絶妙に入り組んだ伊坂幸太郎のミステリー小説である。

 

斬新な切り口から始まる本屋襲撃事件が本書のメインストーリーになるかと思いきや、二年前に起こっていたペット殺しというおぞましい事件も明らかになり、それがどう現在とつながるのかとても気になってページをめくる手が止まらなかった。また、本屋襲撃事件がコミカルな描かれ方をし、あまり重苦しい事件という印象を序盤から中盤まで全く感じないのに反して、ペット殺しという二年前に起きた事件は犯人グループを含め酷く残虐でおぞましい描かれ方をしている。

 

この二つの事件の描写の違いが本書を読み進める上でいい刺激となった。また、読者の視点を担ってくれる椎名と琴美はどちらも私たちが感情移入しやすい人物設定であり、読み進めていると彼らのリアルな感情が伝わってくるようだった。主人公達は素朴な印象もあるが、美人だが生気を感じさせないペットショップのオーナーと、河崎という色男がストーリーに華を添えていて、現実から乖離しすぎず、かつ読者を飽きさせない工夫が随所に凝らされていると感じた。

 

更に、どんでん返しがある小説として名前が挙げらることが多い通り、本書は終盤にさしかかると自分たちが騙されていたことを主人公と共に知り、衝撃を受けるのだ。読了後は読み手によって様々な感情と感想を抱くだろう。読み手によっては純愛ともとれるし、歪んだ愛の形が結実した事件ともとれるし、因果応報という言葉を浮かべる人もいるだろう。

 

本書には様々な人物から、彼らがもつ人間哲学が語られる。もちろん、小説の続きは各々の読者に任されているが、その台詞一つひとつが小説が終わった後の展開の伏線となっている気がするのだ。そして、最後に表紙を見返して、タイトルのアヒルと鴨が誰なのか、コインロッカーに閉じ込めたのは何なのか、それを考える時間を取りたいと思える作品である。

 

(20代女性)

 

 

 

 

 

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)
伊坂 幸太郎
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