読書感想文「残り全部バケーション(伊坂幸太郎)」

伊坂幸太郎の本を読んでみたいなと思いその中でも書店に特集されていた本書をよむことにした。名前の通り人生の残り全部バケーションだという名ゼリフも出てくる。これは、前職を失った登場人物が仕事を失ってしまった僕の人生の残りは全部バケーションのようなものだと述べるところである。

 

私はこの本の中でこのセリフが一番気に入っている。なぜなら自分の人生も残り全部がバケーションだと思ってしまえば何か楽しく過ごせるのではないかと思ったからである。夏休み、春休みなどバケーションと言えば人々にとっての休暇であり、その休暇は自由に過ごしてもいい権利が与えられているのだ。

 

だが、仕事や学業など人々はそれぞれにやらなくてはならないことがあるのが現実でもある。だからこそバケーションと聞けば全てが解放され楽しい、嬉しい、幸せなどという印象を抱くのだ。だから例えそうでなくても残り全部バケーションだと思うのは気持ちの面でも良いのであろう。

 

そして、伊坂小説初心者であった私だがテンポよく読み終えることができた。短編集であり読みやすい印象であった。また、伊坂独特の終わり方に引き込まれていった。最後が綺麗に話がまとまって終わらないところがまた魅力的だと思い、その物語の続きをかんがえてみたくなるような終わり方であった。

 

また、短編集の残り全部バケーションの話で主人公が適当な電話番号に電話して友達になろうというナンパをするという何とも言えないぶっとんだ方法が面白かった。普通はありえないだろうというところであるがなぜか電話をかけた相手も運よく友達が欲しいと思っていたところで本当に出会ってドライブしてしまうという何とも不思議な世界観であった。

 

この主人公の友達になった人物は自分の浮気が原因で家族解散になってしまった最中であった。だが、そんか家族解散という重い事実もなぜかこの小説では楽しいひとときかのような明るく能天気に描かれていた。基本的に明るく、だがまた少し不思議な内容の話が多かったがこれ以外の伊坂幸太郎の本も読んでみたいなと単純思わせる本であった。

 

(20代女性)


 

 

 

 

伊坂幸太郎さんの作品は、好きでたまに手にとっては読んでいる。今回はたまたま目にしたことのない本だったので図書館から借りて読んでみた。題名からして明るい内容か、もしくは夏休み的なものかと思ったが、読み始め早々から、当たり屋や犯罪を思わせるような言葉が並んでいて、最初の一瞬は気が滅入ってしまった。

 

しかし、だれが主人公か分からず、そこが気になって、私は犯罪まがいの手伝いをしている青年を勝手に主人公と決めて読み進めてしまった。

 

とある家族が解散する様子や、最後だからと適当に楽しむ一方で全体的に投げやりで消えてしまいそうな母親は、現在離婚でもめている自分と重ねてしまいそうだったが、あまりに楽観的でその場その場の状況を楽しんでいるので、なんだか、自分の悩みが小さくなったような、落ち込む必要なんてないと言われているように感じてとても気分が軽くなった。

 

なぜかは分からないが、やっていこう、やっていける、と根拠はないのに元気が湧いてきた。その家族となぜかドライブする主人公と思われる彼は不幸な生い立ちで、親からも愛情薄く育てられたような文章があるのだが、詳しく語られることなく、何となく物語が進んでいく。

 

自分の子供は不幸にするまい、と勝手に決意を新たにして、またしても勇気をもらってしまう。物語は何となく登場人物たちにあれこれ起こりながらも進んでいく。

 

そのうちに父親からの暴力に苦しむ少年が出てくるのだが、今度はDVを受けていた自分自身と重ねてしまい、涙しそうになるはずが、読み進めると、何でもやる犯罪お手伝い青年が、何でもありなんだから理由はないけど少年を助けるっぽいことをするのだと決めて行動を起こす。

 

しかし、少年を助けらるかは分からないし、最後まで完全に助ける気もない。なんとなくぼんやりと幕を張るような助け方をする。それは、バックフューチャーさながら、未来の自分が写真を手に登場、お前の暴力の結果不幸が待ち受けているのだ、とにおわして警告をするというもの。

 

なるほど、心に訴えかける、かなり抑止力を持った警告となりそうだと納得しつつも、現実にどうなのか?と自分の夫を重ねて考え込んでしまった。が、やってみる価値はある気がする。なぜかこの本を読んでいると、自分も登場人物のように、大きな理由もないが、やることにした、と何かをしようと決めてしまう自分を発見させられる。

 

何が自分を変化させるのかは分からないが、無理に頑張るのではなく、やろう、と思えるようになった。しぼんでしまった心がすっと自然にいつの間にか、どうしてやら、再生されたと感じた。

 

最後までなんとなくぼんやり、膜を張るようにいろんなエピソードがとん、とん、と置かれていくのだが、なんと、結末がない。はっと考え込んでいるうちに文章は終わって取り残されてしまった。私は、青年が楽しそうにスイーツを食べる光景を思い浮かべて、心温まる気持ちになった。いいんだ、前に進もう、そう思った。

 

(30代女性)


 

 

 

以前にもこの作者が描いた作品は何冊か読んでいたが、この作品も作者の「正義」についての考え方が色濃く表れた作品だ。「善と悪」「偽善」というありきたりなテーマのようにも思えるが作者独自の視点から書かれていて新鮮さがあった。この物語は複数の人物の視点が変わりながら動いている。

 

登場人物は大きく分けて「平和警察側」と「市民側」に分かれるが、それぞれを代表する立場から描かれるシーンもあればどちらともいえないあいまいな立場から描かれるシーンもある。読み進めていくうちにそれぞれの立場の人物のつながりも見えてくるようになっているので読めば読むほど引き込まれた。

 

「正義」を背負う平和警察が残虐で非道徳的な捜査を行う一方で、不当な暴力から人々を救い出す謎のヒーローは危険人物に指定されるといったようにそれぞれの立場から「正義」を表現しているのが面白かった。また、市民側にとっての「正義の味方」も殺人を犯していて、純粋な善とは言い難いという部分も物語の深みを作り出していたといえるだろう。

 

いくつもの命が失われるシリアスさもある一方でクスリと笑ってしまうような登場人物同士の軽妙な会話に引き込まれる。これこそ伊坂幸太郎作品の真骨頂といえるだろう。「国家による監視と市民の自由」という重めのテーマだったがそれらが登場人物たちの口から語られるので非常に読みやすかった。

 

また、作品全体にいくつもの伏線がちりばめられており、物語の後半でそれらの伏線が次々に回収されていた。なんとなく予測がつくものもあれば、思わず「あっ」と声を漏らしてしまうものまであってどんどん引き込まれていく。特に、正義の味方の正体がまさかの人物で驚いた。

 

この小説のタイトルには「火星」というワードは含まれているが、SF的な要素はなく、物語はすべて地球上で繰り広げられる。タイトルは登場人物のセリフとして複数回出てくるが、この言葉に含まれる意味について考えながら読んでみるのも楽しいと思う。

 

(10代女性)

 

 

 

 

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伊坂 幸太郎
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