「SOSの猿」の読書感想文
この作品は一見ファンタジーであるが、実はとても身近に感じることができ、深く考えさせられる。主人公と引きこもりの青年の誰かの助けになりたいという思いと、自分には何もできない無力感の葛藤は誰もが一度は共感することができるのではないだろうか。一方、深く考える主人公たちとは裏腹に楽天的に物事をとらえる合唱団の個性的な人物たち。この両者の出会いによって思考のバランスがとられていくようだった。
主人公や引きこもりの青年と同じく、深く考え、葛藤してしまう私自身にとっても合唱団の言葉は救われるものだった。困っている人の助けになれなかった罪悪感に苛まれるのではなく、その後、その人のストーリーを良いものに描いてしまう。最初は実に身勝手なように感じた。だか、作品を読み続けることで心の重りがとれるような思いがした。
そのきっかけが、引きこもりの青年の母の変化だった。息子の心配だけで一生を費やすのではなく、自分の人生を楽しんで生きている姿を見せていこうとする姿勢の変化に納得させられた。善と悪がはっきりしていないということも考えさせられる。ひとつの出来事に対して何が、誰が悪いのかを探っていこうとする場面がある。
それに答えは出てこない。ひとつが、すべてが間違いでも正解でもない。思考の迷路に入り込んでしまう感覚に陥った。考えることが好きな人には実に楽しい迷宮に入り込むことができるだろう。
終章に入っても登場人物たちの状況が大きくかわっているわけではない。だが、引きこもりの青年のことばかりを心配していた母、引きこもりの青年、理論重視のサラリーマン、主人公には見えない心情が、良い方に変化しており、作品が終わっても少しずつそれぞれの人物たちが成長を遂げていくような期待感を持つことができる。
深く考えさせられる物語だが、思わず笑ってしまう場面もある。興奮するようなアクションやミステリーがあるわけではないが、楽しんで読むことができた。
(30代女性)
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