読書感想文「何者(朝井リョウ)」

就職活動に励む学生の群像劇かと思いきや、最後の最後で喉元にナイフを突きつけられる。「お前は何者だ?」そう問われているようで、とても恐ろしい気持ちになった。この小説は主人公を含む5人の大学生が就職活動に臨むのだが、その様子がなんともリアル。

 

自分も数年前に就職活動をしたのだが、「ああ、あるよねこういうこと」「そう、友達が先に選考に進んでるとハラハラしちゃうよね」と共感してしまう部分が非常に多かった。また、主人公たちはおそらく高学歴なのだが、学歴だけでどうにかならないところも非常に現実的だ。

 

面接の練習を必死でしているにもかかわらず、その手前のウェブテストで落とされてしまう、しかもそのテストを手伝ってくれる友人はいない。内定ふたつゲットしたと思ったら、そのどちらもよく聞く「大企業」ではなかった…。大企業に内定したかと思いきや「エリア職」…。絵に描いたような成功は簡単には手に入れられない現実がひしひしと伝わってきて、とてもじゃないが就活挑戦中には読めたものじゃない。

 

何度となく祈られた思い出が蘇ってきて、思わずページを握る手が震えた。そして、いっそう震えたのが、最後の30ページ。登場キャラクターの中で比較的冷静で現実的な主人公、拓人の正体が暴かれるシーン。拓人に感情移入して終盤まで読んでいただけに、最後の最後で拓人、そしてページを通り越した「私」に刃を剥いてくるあのシーンには、読みながら背筋が凍る思いだった。

 

「意識高い系」なんてちょっと斜に構えた目で他人を見てみたり、がむしゃらに、時には痛々しいまでに自分の活動をアピールする人を見下してみたり。そんな風に観察者ぶっていても、自分を変えることはできない。自分を今以上の存在にするためには、痛々しくても傷を負おうとも変化するために挑戦し続けなければならない。

 

痛々しくも爽やかさが残るラストシーンには、ひねくれてないで前向きに未来を見ていこうぜ、と思わされた。

 

(20代女性)


 

 

 

 

「いるいる、こんな人。あるある、こんなこと」この作品を読んで、終始私はそう心の中で呟いていた。お調子者で能天気だけど要領の良い人、自己アピールが激しすぎて周囲に距離を取られる人。お互いの状況の探り合い、自分より人がうまくいっていることに対しての疑問や嫉妬心。あからさまな嫌味や、それをうまく交わす様子。

 

そして、何より、それを冷静に分析した気になって、人を上から観察している感覚に陥っている主人公。このように、自分の身の回りにいそうな人々、事柄がうまく描かれていたため、共感してしまった。

 

特に私の印象に残っているのは、仲間の中で一番お気楽者に見える光太郎が、順調に就活を進めていることが明らかになるシーンだ。いわゆる「意識高い系」の理香と主人公の拓人が、光太郎の成績証明書を発見し、彼が最終面接まで進んでいることを知る。

 

その時、理香は「たまに、光太郎くんみたいな人って、いるよね。笑わせたいから、とかそういう姿勢で面接もすらっと受かっちゃうんだもん。多分今までもそうやってきたんだろうし、これからもそうやってうまくやっていくんだろうね」

 

というようなことを呟く。この台詞を聞いた拓人も、おそらく彼女と同じことを感じたのだろうが、言葉には出さない。このシーンには、なんであの人が自分よりうまくいっているのか、要領が良い人って得だよね、と言う気持ちが見え隠れしているように、私には思えた。

 

なぜこのシーンが心に残ったのか。それは少なからず、私も理香と拓人のような気持ちになったことがあるからではないのか、と考えた。私はもともと要領の良い方ではない。また、理香と拓人のようにプライドが高い一面もある。そのため、このシーンを読んだ時、理香に対して、

 

「そういうこと、口に出して言うなんて、嫌味だな」と感じた反面、自分が同じ状況に置かれたら、言葉にはしなくとも同じことを思うだろう、と感じた。「何者」の中では、主人公を含めて六人の大学生がツイッターを使っている様子が書かれている。

 

ツイッターの使い方によって一人一人の性格や特徴が滲み出ており、とてもおもしろい。例えば、先ほど出てきた理香。ツイッターのプロフィールの中で、たくさんの肩書きを書き、自己アピールに自己アピールを重ねている。

 

何かにつけてツイッターに投稿し、充実してます、仲間と助け合ってます、自分を高めています、という内容から、自分をよく見せたい、人よりも幸せそうに見せるためにツイッターを利用しているように私は感じた。

 

一方、大人しめで「地道素直系」の瑞月は、当たり障りのない内容をたまにツイートしている。瑞月は、自分の就活の進み具合を人に話すことなく、周りの嫉妬や探り合い、嫌味に振り回されずに一番初めに内定をもらう。

 

物語の中で、瑞月は主人公である拓人の想いびとであるためか、嫌味がなく、素直で純粋な目を持った女の子というように描かれている。確かに、彼女は理香やその彼氏のように自己主張が激しいわけでもなく、光太郎のようにたまに皮肉めいたことを言うこともなく、拓人のように裏アカウントを使って悪口を言うような人ではない。

 

しかし、私は、瑞月は「言わないだけ」であって、きっと他の登場人物と同じようなことを考えていたのだろうと推測している。そのため、彼女はある意味最も頭の良い子なのだと思った。それを確信したのは、物語の終盤、内定をもらった瑞月が、理香の彼氏である隆良に今まで思っていたことを一気に吐き出すシーンだった。

 

隆良は「自分は他の人とは違う。就活なんて馬鹿馬鹿しい。就活しないで自分は正しい」というような考え方の持ち主だ。就活する拓人たちに、上から目線でものを言っていたりしつつ、隠れて就活をしていたりもした。

 

そんな隆良に、拓人たちは、内心では言い返したい気持ちでいっぱいだったのだ。そのため、まさか大人しい瑞月が、隆良に言い返すとは思いもしなかっただろう。つまり、瑞月は、みんなが言いたくて仕方がなかったことを、隆良本人に向かって言ったのだ。

 

ここで重要なのは、瑞月が仲間の中で内定をただ一人だけもらい、もうこれ以上就活をしなくとも良い状態だった、ということだ。瑞月の口調や、言葉の長さと内容からして、瑞月は以前から隆良に反論したかったのだろうと私は感じた。

 

だからこそ、すらすらと言い返すことができたのだろう。すなわち、瑞月は言い返すタイミングを待っていたのだ。きっと他の人たちが隆良に面と向かって言えなかったのは、会社からまだ内定をもらっていない不安定な状況で、堂々と言い返す自信も勇気もなかったからだろう。

 

瑞月も同じように感じていたからこそ、彼女が仲間の中である意味一番心に余裕がある状態を選んで発言したのだと私は思う。このことから、瑞月は、自分は自分で確実に行動し、自分の腹の中をうまく隠しながら、ここぞと言うときに相手を言い負かす、抜け目のない女性だと私は考えた。

 

この本は、読んでいるうちに、登場人物たちの意外な一面や、弱さなどに気付かされる。その様子に自分を重ねることも多く、自分もきっと就活をしたらこうなるんじゃないか、とヒヤッとすることもあった。登場人物の誰が良くて、誰が悪い、ということは決してなくて、どれだけ自分の思っている悪い言葉を言わないようにしているか、の違いだけなんた、と思った。

 

就職する、というのは、子どもだったときから自立して一人の大人として社会に出ていくことだ。就活をするとき、虚勢を張ったり、嘘の自分を作ってもすぐにバレてしまう。結局、主人公の拓人は、就活二年目でもなかなか内定をもらうことができない。

 

それはきっと自分の今までやってきたことに自信が持てていないこと、人の悪い部分ばかり気にしてしまうため自分の良い部分にも気付けなく、そのまま自分自身を受け入れられていないことが原因ではないのか、と私は思った。

 

それと同時に、それなら私は数年後に就活をしたとき、果たして大人として就職することができるのだろうか、とも考えてしまった。 弱さがある自分を認め、その上で自身の良さを引き出し、自分がやってきたことに自信を持って、他者に表現し、生きていく。

 

これは就活だけでなく、一人の大人として社会の中で生きていく上で大切なことだと改めて感じた。私は今大学一年生だが、就活のために充実した自分を作り出すのではなく、本当の意味で大人になれるよう、大切に学生時代を過ごしていきたいと思う。

 

また、周りを意識しすぎて、優位に立とうとする発言をしたり嫌味を言う人に振り回されず、思っていたとしても「言わない」ということも大切なのだと感じた。

 

(10代女性)


 

 

 

映画化もされた『就職活動』と『SNS』をテーマにした青春小説。青春の明るさの裏に隠されたどんよりとした薄暗さが心にしみこんできて、読んでいるとどんどん気が沈んでくる小説だ。高い理想を掲げ、意識を高く保ち、就職活動を通して未来を創ろうとする若者たちの心理が生々しく描かれていて、もしも自分がこれを読んだとき就活生だったらもっとう憂鬱になっていたことだろう。

 

登場人物はどれも「現実にいそう」「こんなやついた」と思わされるくらいリアリティがある。主人公はアマチュア劇団に所属していたが、現実を見て夢を追うことを止め、就職活動に注力することにした大学生。そんな彼は学生の間バンドに熱意を注いでた友人や、クリエイティブな職業を目指す芸術家気質の就活生、その彼女で常に「意識の高い」発言を繰り返す女子大生、そして密かに思いを寄せている女友達。

 

夢を抱いた五人が就職のための共同戦線として、一つの部屋で集まって就活の情報を交換したり、就職についての意見を交わしたりする。表向きは輝かしい未来へと進むための集まり。だが、その裏側では嫉妬や見下しが横行していく。そして、何社もの志望先から断りのメールを出されるたびに「自分が特別な何者かである」と信じていた若者たちの肥大化した自意識は亀裂が入っていき、その表面で人間関係も壊れていく。

 

主人公は、そんな周囲の友人たちをどこか見下した視線で眺め続ける。実際、客観的な視点を持つ読者である私から見れば彼らの異様に理想だけ高い就職活動は滑稽で、主人公に同調してしまった。だが、その達観したつもりの主人公でさえ最後の最後にはもっとも手痛い形で自分の『痛さ』を抉り出される。

 

このラストの場面は一番恐ろしく、文章の向こうにいる私が心臓に冷水を流されたような気分になった。この作品はホラーではなく、あくまで青春小説だ。最後まで殺人だとか血みどろだとか直接的なホラー描写や展開があるわけでもない。ただあくまで「就活」という人生の節目を描いただけの物語。

 

それなのに、どうしてここまで背筋がゾッとして心臓が鷲掴みにされたような気分になるのか。それは崩れていく人間関係と心理をよく描いているからだろう。もう読むのをやめたいのに、不思議とページをめくる手は止まらない。そんな不思議な読書体験だった。

(20代男性)

 

 

 

 

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