読書感想文「つめたいよるに(江國香織)」

「デューク」が死んだとき、私の愛犬も死んでしまったのかと思った。このつめたいよるにという本は、21の短編からなる小説だ。その幕開けとなる物語が「デューク」という、愛犬を亡くした女性の物語だった。

 

出だしからひたすら号泣する彼女に、同じ犬を飼う人間として姿を重ねてしまう。とにかくその泣きっぷりがすごかった。町を歩きながら泣いて、バスの中でもひたすら泣いて人目を気にしてる余裕なんてなさそうだった。

 

それは、ペットというくくりでなく、家族の一人を失ってしまった感情なのだと思う。だから彼女の悲しみは、家族を持つ誰もが共感できるのかもしれない。そして主人公はある男性に出会い、ほんのつかの間デートをする。悲しみでいっぱいだったはずなのに彼が自然に手を引いてくれる。

 

 

 

 

そしてその彼はどことなくデュークに似ていて、主人公は懐かしく過去を振り返るのだ。そのデートの中で、物語の雰囲気が変わってくる。最初は悲しいブルーな気分だったのに、あちこち二人でまわっていくうちに様々な色がこの話を彩ってくる。

 

何となくする二人の会話やテンポにどんどん引き込まれていく。申し訳ないが、愛するペットの死を一瞬忘れてしまうほどだ。そうして最後の1ページ、あっ!と思った。なんとなくうすうす感じてはいたが、、と思ったところで私自身泣いてしまった。悲しみの涙でなく、嬉しいような懐かしいようなものだった。

 

この物語を通じて思うのは、大切な誰かが死んでしまった時に私もこれほど悲しむのだろうという恐怖と、いつか私が死んだらこんなふうに風のようにこの世界を去りたいという陽気さ、この二種類の感情だ。

 

天気が悪い日の雲の切れ間の光が美しいように、人生にはどんなときも美しい瞬間が現れてくれる、そう思うことができた。このデュークの他にも、心の繋がりを描いた作品がたくさん掲載されている。

 

母子家庭で育った少年の前に、「この人がお父さんよ」と侍の幽霊を連れてこられる草之丞の話。設定がとんでもなくファンタジーなのに、いつの間にか物語に入り込み溶け込んでしまう。押し付けがましい感じではなく、人との出会いのかけがえない部分をさらりと教えてくれる。

 

私も忘れてしまっている大切な思い出や、ないがしろにしている人間関係があったかなと振り返る機会を与えてもらった。

 

(20代女性)

 

 

 

 

 

つめたいよるに (新潮文庫)
江國 香織
新潮社
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