読書感想文「ステップ(重松清)」
この本との出会いは新聞の新刊案内だった。その時は『ふぅん』程度にしか思わずにいたが、それから数日後別の用事で書店に行った時に平積みされたこの本に目が行った。何か吸い寄せられるように購入して早速読み出したら止まらなくなった。父子家庭の話だった。
私には当時2歳半の双子の息子がいた。物語の冒頭、主人公である父親の娘・美紀が同じ2歳半だった。病気で亡くなった妻の一周忌を終え娘を保育園に預けるところから物語は始まった。
読み進めていくうちに私は主人公や娘の目線ではなく、亡くなった妻の立場になり物語を読んでいた。まだ「ママ」ともはっきりと言えない1歳半の娘を残して逝かなければならなかった事はさぞかし無念だっただろう。そして不安だったろう。風邪をこじらせ髄膜炎を発症し、昏睡状態に陥り別れの言葉もなくこの世を去った妻・朋子。
主人公は亡くなった妻の思い、一年間実家や会社の協力を得てなんとか幼い娘を育ててきた。この妻は愛されていた。心から愛されていた。私は嫉妬にも似た感情を抱いたものだ。そして主人公の娘への無限の愛情を感じた。
物語は娘・美紀の成長と共に進んで行く。成長するにつれ色々と父子で乗り越えなければならないことも出てくる。学校で母の日にお母さんの絵を描く。今までとくに何も感じた事などなかったが、既に母親がいない美紀ちゃんにとっては悲しい事だろう。天の上で見守っているであろう妻はどう感じたのだろう?
これは逆もあり得る事だった。この本に出会って数年後の話になるが息子の幼稚園の同級生が父の日の絵にお母さんの絵を描いたという。その子の家は母子家庭だった。お母さんがお父さんの代わりも果たしているのだろう。現在はこういったご家庭に配慮して絵を描かせない幼稚園や学校もあると聞く。
物語の最後、美紀にはお母さんが出来る。きっと天の上で見守っていた美紀の本当の母も安心できただろう。そして美紀の祖父、主人公の亡くなった妻の父との別れがある。この別れが何か一人で娘を育ててきた主人公の頑張りを亡き妻に報告しに行ったのだと感じた。
子育てとは一人の人間を育てる事。親が二人いても大変だというのに、この父子はきっと恵まれていたのだろう。美紀はもうすぐ中学生。きっとこれからもまっすぐに育っていくだろう。そんなふうに心から思えた。
(40代女性)
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