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読書感想文「ヴィヨンの妻(太宰治)」

「ヴィヨンの妻」の読書感想文

いつだったか昔、太宰治の「人間失格」を読んだことがある。太宰治や芥川龍之介といった少し破滅的な人生を送った文豪の作品を読むことがかっこいいと思っていた時期があったのだ。

しかし内容は全く分からなかった、もちろん文章としては分かるのだが表面的な内容以外のことが全く分からないし理解出来なかったのだ。結局太宰治への関心はそれで止まり永らく更新されてこなかったのだ。

それから約20年ほど近所の古本屋で比較的傷みの少ない「ヴィヨンの妻」を手に取ってみると、俄に再び太宰文学への関心が高まってきた。このヴィヨンの妻は表題作を中心とした太宰治晩年の短編集で、裏表紙の解説にもあるように自死へと向かっていく太宰の心情を多分に含んだ構成の文章表現のものばかりとなっている。

まず冒頭の「親友交歓」は、単純に面白かった。戦中戦後の時期、青森に疎開していた太宰のところに全く記憶も思い入れもない自称親友の男が訪ねてくるという話だ。

結局のところこの男の目的は、地元の名家出身で作家としても多少名声のあった太宰は当時手に入らなかった酒や食糧などを持っているに違いないと当て込んで理由をつけて会いにきたに過ぎず、それを半分分かりながらも応対せざるを得ない太宰の多少の人間らしさが感じられて自分としては新しい太宰像の発見ができた。

表題のヴィヨンの妻は、全く家庭を顧みずツケや借金を繰り返しながら家の外で飲んでばかりいる太宰本人を揶揄した夫と、なんとか家庭を維持しようとする妻の話である。ある日妻は、家に戻ってこない夫に会うためには、多額のツケを残しつつも定期的に夫が通ってくる居酒屋で自身が働けばツケも返せて夫とも会えるということを思いつく。

ユニークな展開ではあるがそこに明るい未来や喜劇的な展開はなく、太宰による自身への自虐が多分に込められておりどちらかというとどうにも修正できない自身の生活習慣や家庭への態度への諦めにも似た感情を感じてしまう。

約1ヶ月ほどで読み終わったのだが、今回は違った。子どもへの関心も薄いし妻には悪いと思いつつもなにか誘惑があるとすぐそちらに傾いてしまう太宰自身の葛藤や諦めを自分なりに感じることができたのだ。

とはいえ太宰の自身へのこういった境地には私は全く同情は湧いてこない。しかし少なくとも今現在の私はもう一度「人間失格」を読み直そうという気持ちにはなっている。

(40代男性)

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