読書感想文「秋風記(太宰治)」

私はたまに、何かがうまくいかなくなると、何もかも全て嫌になってしまい、全てを投げ出してどこかへ逃げてしまいたくなる。この作品はそんな気持ちによく似ている。作家の主人公と、二つ年上の女性「K」。二人は幼い頃から家族同然で、二人とも「生きて来なければよかった。」と思っている。
 
ある年の晩秋に、主人公は「K」のもとを訪れ、旅行に行きたいと誘う。二人は秋の中、旅に出て行く。秋の景色も細かく描かれていて、一層二人の儚さを演出しているように思えた。中でも私はこの言葉に心を奪われた。『過去も、明日も、語るまい。ただ、このひとときを、情にみちたひとときを、と沈黙のうちに固く誓約して、私もKも旅に出た。
 

 
 
家族の事情を語ってはならぬ。明日の恐怖を語ってはならぬ。きのうの恥を語ってはならぬ。ただ、このひととき、せめてこのひとときのみ静謐であれ、と念じながら、ふたりひっそり体を洗った。』生きて来なければよかったと思っている主人公が、Kといるこのひとときを大切に思うのは、しっかり自分と向き合い、これからを前向きに考えているからではないかと思った。
 
この作品は太宰が薬物中毒や自殺未遂の日々から立ち直ろうとしていた時期に描かれた作品で、それと照らし合わせると、再生のメッセージが込められた作品なのではないかと思った。教訓じみたものではなく、実際に苦労と向き合った人が描いた作品だからこそ、前向きに頑張るんだという気持ちが強く込められている気がして、自分も苦しいことに立ち向かっていこうと思えた。
 
作品の冒頭にこんな歌が載せられている。『立ちつくし、ものを思へば、ものみな物語めき、』。どんなに嫌な事、苦労したことも、過ぎてみてふと思い出してみたら物語のようなものだ。だからこの瞬間を大切に過ごしてゆく、という思いからこの作品の冒頭に載せたのではないか、と思った。何かがうまくいかなくて嫌になったとき、私はこの作品を読んで立ち向かってゆく力をもらっている。
 
(20代女性)
 
 
 
 

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