「夜が明ける」の読書感想文
読み終えて感じたのは絶望に近い自分の「無力さ」だ。この物語の作中人物は、皆何かを守るために自分に鎧をつけているものの柔軟にこの世の中を泳いでいこうとしているというのに私はそういう者達の思いも知らず、またそのような思いに至る鎧も持ち合わせず生きて来たのではないかと感じたのである。
彼らを「強い」というのは簡単で「弱さ」を理解するのも容易だけれど、深く受容できているかと問われると全く持って自信がない。主人公アキを含めバーで働く人々が「何者かの仮面」を被ることでしか生きていけなかったような「生」の苦痛も感じたことがない。
貧困や虐待、学歴、働く環境などテーマが非常に重い作品だったがどれかは自分の過去に当てはまるものはある。例えば主人公俺の後輩、森のように男社会でも強く逞しくのし上がっていくために天然を装い、物怖じせず上司に意義を申し立てるところだ。
彼女は、女であることが邪魔にならないように女であることを大切にしていた。何かを守るために「何か」をするという行為は、誰にでも当てはまる気がする。その多くは「自分」を守るのだから当然とも言える。
希望を持って生きろ、希望はある、夜は明けるというメッセージの中で絶望を感じた私もまた正しい感情に思えてならない。絶望がなければ、希望もうまれないからだ。小説の多くは「物語」として実際には経験しないから面白いと楽しめる物だと思っている。
しかし、この物語は振り向けばそこにいる人の物語でありこの日本である程度の人数が経験している話だからこそ読んでいると苦しくなるのは否めない。その苦しさが、作中の人物とシンクロしているのか読み終えた時の目の前の明るさに驚くばかりだ。
この疑似体験をさせたかったのかと問いたいほど先が見えないくらいに落ち込むのである。ハッピーエンドだと思わせるものの、果たして本当にそうなのかと深読みしてしまう自分がいた。この世は美しいものなのか、彼らのこれからは輝くのか、自分はきちんと「生きて」いるのか、数時間考え込んでしまった。
(50代女性)
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