「地下の鳩」の読書感想文
色んな気持ちが駆けめぐった。主人公の吉田は40代。口数の少ない彼が周りの人々と接する時の気持ちの揺れが、自意識過剰な感じがして、ある程度年齢を重ねても、そう言う感情って無くならないなぁ、と自分に重なった。おとなになって上手く誤魔化せるようにはなっても、無くならない… 彼の目を通して描かれる人々が、読んでいてリアルに頭の中で実写化されていく。女から見て嫌いな女もいたし、興味湧くオカマや、客引きの汚そうなおじさんに苦笑いしたり。
端的に言えば、夜の街を舞台にした中年?男女の恋愛模様が中心だが、登場人物がそれなりの年齢なので、個々の過去(歴史)がある。なぜそんな言動をするようになったのかがわかり、そこがなんとも味があって深くておもしろかった。人は良いところばかりじゃないし、他人から見たらどうしようもない性分もあるけど、そこに魅力のような哀愁を感じた。主人公二人の関係がどうなっていくのか、先が読めず、格好ばかりつけてはっきりしない吉田に腹立ちもしたが、最後二人らしい落ち着き方だったなぁと思う。
どうしようもない二人に、切なくて愛着が湧いた。本編で出ていたオカマバーのママの話が、短編で語られる。見た目とのギャップもあってとても魅力的な人だ。バーに来る客を観察する力のすごさ!客のしぐさや言動でどう返答すれば喜ぶのか、瞬時に見抜いてしまう。占い師になれるんじゃないか!と思ってしまった。実際自分が客だったら、どんな風に見られてどう対処されるんだろう、とても気になる…あまりに鋭い観察眼に、作者の西さんはこういうお仕事をされてたのか?と思ったくらいだ。ママが幼少期、自分の癖に気づく瞬間がある。同性の男子が気になる…と。
結局気持ち悪がられていじめられるけど、そこから自分を受け入れ自分にしかできない立ち位置を見つけていく。とても格好よかった。一冊を通して、ありのままの人物像たちに力づけられた気分だ。色々あっても包括して生きていきたい、そんな風に思えた。
(40代男性)
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