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読書感想文「きりこについて(西加奈子)」

「きりこについて」の読書感想文

西加奈子の小説を読み終わったあと、いつも思うことがある。人間っていいなあ、ということである。もう一つは、いつまでたっても物語の登場人物が(特に主人公であるのだが)心に住み着いてしまうということである。それくらい、人間の無様なところや滑稽な様子をも率直に描いている。読み始めはただの作り話と思っているのだが、あっという間に実在の人物がこの世界で生きていることの描写なのだと思うように変化していくのである。
 
この小説の場合、きりこという女の子が成長していく中で体験することや心で感じていくことを、きりこが飼っているねこが語るというスタンスで進んでいく。だから、今私の心にずっといるのはきりことねこである。きりこは見てくれの良くない女の子であるが、小学5年生のときに男の子に「ぶす。」と言われるまで気がつかなかった。両親がこの上なくかわいいと言って育ててくれたからである。 
 
当然ながら、しばらくは自分が不細工であるということが理解できないのである。ただし、それを理解してからは人一倍傷ついたし、引きこもりのようになってしまう。読んでいるこちらも、何とも言えないつらい気持ちになる。この救いようのない読者のつらさを和らげてくれるのが、飼いねこラムセス2世である。ねこは人間と全く異なる価値観で生きている。きりこの歯並びの悪いことですら良い評価に値する。
 
ねこからしたら、きりこは素晴らしい人間であって、劣等感を感じて引きこもるような存在ではないのである。ここで読んでいるこちらも、そうだよ、きりこはただ人間の美的センスというたった一つの評価基準によって苦しんでいるだけなんだ、胸張って生きていっていいんだよ、と沈んだ気持ちから回復することができるのである。終盤には、きりこ自身も立ち直り、前を向いて生きていく姿を見ることができてで安心した。また、最後にきりこが「うち、容れ物も、中身も込みで、うち、なんやな。」というところはこちらも感極まってしまった。
 
(40代女性)

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