〜名作が見つかる読書感想文の掲載サイト〜

読書感想文「ふくわらい(西加奈子)」

読書感想文「ふくわらい(西加奈子)」

「ふくわらい」の読書感想文①

世界に恋をする、ああこういうことか、私も幼い頃、きっとこうして世界に恋をしたのだろう。そのように思わせてくれる作品だった。主人公の定は20代の女性、編集者として働いている。一風変わった生育環境とその感性から、周囲の人々、世界との間にガラスの壁のような隔たりを感じながら生きている定。
 
幼い定の心を強烈に動かした体験が「ふくわらい」で、大人になった今も自宅でふくわらいをするのが趣味である。そしていわゆる紙のふくわらいだけでなく、実際の人の顔のパーツを想像の中で自在に動かして遊ぶふくわらいをも密かに楽しんでいるのである。
 
そんな定の世界、そして定自身に変化が訪れる。編集者として担当することになったプロレスラーや、定に一目惚れした視覚障害をもつ男性、雨を降らせるよう頼んでくる作家や女性との逢瀬を楽しむベテラン作家、そして美人の同僚など、そんな周囲の人々との出会いの中で変わっていくのである。
 
周囲の人々の定に対する反応は様々だ。気味が悪いと感じる者もいれば、定のもつ純粋さに強く惹かれる者もいる。ただ、どの人物も定を変えよう、変えてやろうとはしない。定も自分で変わろう、周囲の「普通の」世界に合わせようとすることはない。
 
定が唯一気を許してきた存在である乳母の老いや、ある作家の死など、様々な出来事があいまって、定が変わる、ある意味この世界に定が「生まれる」ための時機が訪れたのだろう。定の父母との関係は、特殊なものであった。その関係性が、周囲の人が、そして世間が定を恐れたり、気味悪がる一因ともなっている。
 
定はとうに成人した今になっても母とのふくわらいの思い出であるタオルを愛しており、それはいわゆる移行対象のようにも思える。また、定は父を愛していたが、文字どおり父を「食べる」ことで父を内在化してきた。
 
そんな父母との関係にも大きな変化が訪れて、定が抽象的に父母を内在化できるようになったことで、定は初めて真の意味でこの世界に生まれたのだと、そんな風に感じさせられた。世界に出会い、世界に恋する体験は通常は幼少期にすることが多く、記憶にも残らない。
 
しかし定は大人になった定自身の体と心で、その体験をすることができており、その眩しさは強烈だ。定をとおしてそんな体験ができたことを嬉しく思う。
 
(30代女性)

Audibleで本を聴こう

Amazonのオーディオブック「Audible」なら、移動中や作業中など、いつでもどこでも読書ができます。プロのナレーターが朗読してくれるのでとっても聴ききやすく、記憶にもバッチリ残ります。月会費1,500円で、なんと12万以上の対象作品が聴き放題。まずは30日間の無料体験をしてみよう!!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA