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読書感想文「お気に入りの孤独(田辺聖子)」

「お気に入りの孤独」の読書感想文

「お気に入りの孤独」は、夫婦という男女の関係性に満ち足りていない女性の気持ちにしっくり来る小説だ。主人公は風里(ふうり)。仕事で出会った涼(りょう)と結婚した。涼は資産家の息子だが、風里は特にその事にひかれて結婚したわけではなかった。

お金に困った事がなく、母親に溺愛されて甘えて育った男の、なんとも言えない可愛らしさが好ましく、自分の仕事で普段接する男性の気難しさと対極にある御しやすさが気楽で一緒になった。その出発点に、既婚女性なら一部共感し、一部疑問視するだろう。

結婚相手の男性に求めるのが、果たしてのしかかりやすさだけでいいのかと。結婚して間もなく、風里は涼のマザコンにひいてしまうようになる。しかし、涼の母親は資産家の夫人らしさが鼻につくほどの女丈夫で、風里は涼の母親に対しては良い嫁であろうと努力する。

義理の両親に対する風里の態度は、昭和の普通のお嫁さんのものだ。普通でないのは、夫との会話である。風里と涼の会話はイチャつきあいである。新婚生活が過去のものとなっても、夫との会話がイチャつきあいだけであるのは普通でない。

風里は、その事の異常さにやがて気づく。きっかけは未婚時代の友人のイベントに行き、そこで出会った男性と気持ちよく話ができるようになったことだ。その男性、中園のことを、風里は始めのうちは「男の子」ととらえている。

御しやすさを異性に求める風里の姿勢がここにも現れている。しかし、中園と接する機会が重なるにつれて、風里は中園とは互いに伝えあおうとしており、夫の涼とは伝え合う努力をしたことがないことに気づく。伝え合うことは、たしかに難しい。

夫婦という関係になった男女が、本当に伝え合うことはなかなかに大変なことだ。しかし、その努力もしてこなかったというのは、やはり普通でない。風里は涼との関係に満ち足りなさを覚える。心の隙間を広げたのが涼の浮気だ。

涼は風里と結婚する前に付き合っていた女性がいた。問題はその女性との関係が今も続いていたことだ。風里の女友達は、涼の家の財産を考えて浮気なぞ見逃せと言う。しかし、風里は涼と離婚することにして、仕事のために転勤する。転勤の前に風里が電話したのは中園だった。

中園の声に、風里は癒やされ、中園にしみじみ会いたいと思う。伝えあいたい相手。その異性と、今度こそ結ばれてほしい。物語の終わりに余韻が残る、味わい深い小説だった。

(60代女性)

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