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読書感想文「鍵のない夢を見る(辻村深月)」

「鍵のない夢を見る」の読書感想文①

この本との出会いは、タイトルがなんとなく気になって、手に取ってみた。すると、普通に生活している人々が魔が差したように犯罪に手を染めてしまう怖さを含んだ物語の短編集だった。読み終えた時、鍵穴から見てはいけないものを除いてしまったように感じた。だが、人は何度でもやり直しがきくのかもしれないとも感じ考えさせられた。
 
この5編の中で特に衝撃を受けたものは、最初の「仁志野町の泥棒」だった。この物語は、まさかの小学生の女の子ミチルの目線で話しが進んでいく。しかも、転校してきて仲良しになった友達の律子は、母親の秘密を抱えて苦しんでいたなんて、意外な展開なのでドンドン引き込まれていった。
 
そして、空き巣の被害もあちこちであり、徐々に噂は広がっていくのに、この町の人々の対応は優しかった。きっと子供のことを考えての対応だから、この町の人々は心が寛大だったのだろう。でも、母親の姿を見ているせいで慣れてしまっていたのか、律子自身も万引きをしようとする。
 
その少女の姿を目撃してしまい、許す事が出来ず指摘してあげる主人公のミチルの心の強さに感心した。私が同じ立場にいる子供だったら、見て見ぬ振りをしてしまったかもしれない。私はこのシーンで、人の反応が気になってしまい、行動ができない自分の弱さに気付かされ反省した。
 
その後は、一歩引いた形でミチルは律子と関わっていた。さらに3年間も同じ小学校で過ごしたにもかかわらず、高校も別だったので偶然の再会ではミチルの名前すら忘れられていた。やはり人間は、興味がなくなった対象の存在はすぐに忘れてしまうものなのだろうか。
 
いつまでも負の部分を抱えて生きていくのは大変だ。だから、忘れていくことも必要なことかもしれない。しかも、自分を取り巻く環境によって、人は成長して今までの負の部分をリセットする事が出来るようだ。リセットする事によって、人は何度でもやり直しがきくのならば、なんとなく嫌な気分のまま終わった物語にも希望の光を感じることが出来る気がした。
 
だが現実はそれ程甘くはない。私の周りには、負の部分をリセットしても一向に立ち直れずその場所から動き出せない人がいる。私もミチルのように毅然とした態度で行動できたら、その人を動かすことが出来るだろうかと、この物語からエールをもらったように思う。
 
(40代女性)

「鍵のない夢を見る」の読書感想文②

2018年の本屋大賞に選ばれた作品「かがみの孤城」を書いた辻村深月が直木賞を受賞した作品。辻村深月の特集番組を見て興味を持って取り寄せて読んでみた。2015年に書かれた短編集なのだが、どの作品も引き込まれるようにあっという間に読み終えてしまった。
 
難しい言葉がなくて読みやすいのもあるが、どの作品でも冒頭からあれっという疑問が置かれていて、そこから自然とストーリーに心がつかまれて行く。全て主人公が女性なので、主人公の気持ちになってその物語の中にいる自分に気づく瞬間が何度もあった。一つ目の短編小説「仁志野町の泥棒」では、主人公と同じ小学校高学年時代に戻って作品を読んでいた。
 
私も主人公と同じような3人の女子グループに所属していたことと重なった。小説の中のグループの一人が親子で盗みを繰り返し転校してきた女子。私自身の当時のグループに盗みをする人などはいなかったけれども、もしもいたとしたら、自分はどうなっていただろうと考えさせられた。もし主人公のように、盗みの現場を目撃してしまったら、自分ならどうしただろうか。
 
小説の3人グループのもう一人はすごく大人びた考え方で、転校生の母親が盗みをしていることを知っていたにも関わらず、転校生の女子を受け入れていた。そして、彼女はクラスの女子の人気者あこがれの存在だった。こんな子も私のクラスにもいたいたと思った。
 
小説の中の人気者の彼女は表面的なことだけじゃなくて、大人びた所が小説の中でクラスメートを引き付けていたのかなとも思った。この人気者女子の立ち位置は私とは全く違う。やはり私に近いのは主人公の方だ。転校生自身の盗みの現場を見て動揺してしまうのだが、その時の気持ちがすごく分かる気がした。
 
私も同じ状況ならどうしたらいいのか分からない気持ちになって、その後も盗んだ転校生の女子を心でずっと許せないでいただろう。人気者の女子は転校生の女子と高校生になっても付き合い続けていた。彼女は盗むという転校生女子の悪い面ではなくて、運動が出来て明るくて行動的など魅力的な部分だけに目を向けて付き合えるのだ。
 
一方主人公はずっと心のどこかで転校生の女子を許せないでいる。私は残念ながらこちらのタイプなのだ。なりたいのは人気者の女子の方なのに絶対なれない自分がいる。この作品を通して小学校高学年という多感な少女時代の私に引き戻され、そして今の自分についても考えさせられた。
 
(40代女性)

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