「ごはんのことばかり100話とちょっと」の読書感想文
食事というのは、ただ栄養を摂るだけの手段ではない。この作品を読むたびに、いつもしみじみとそんなことを思う。この本は、「キッチン」「TUGUMI」などの小説で知られる吉本ばななのグルメエッセイだ。タイトルのとおり、「ごはんのことばかり」を作者がひたすら熱く語っている。
専業主婦である私にとっては、毎日の献立を考えて料理することが家事の中でかなりの負担を占めている。時にはメニューが思い浮かばずに、どうしようと悩んでしまうこともある。そんなときにこのエッセイを開いてパラパラと読むと、必ず何か「おいしそうだなあ」と心に引っかかる食材や料理がある。
著者の家族構成(自分、夫、幼い息子)が、我が家と同じなのも良いのかもしれない。国際的な舞台で活躍していて、旅行も好きな著者であるので、世界各国の聞いたこともない料理が登場する点も面白い。とても自分の貧弱なレパートリーでは思い浮かばないような献立に出会うこともでき、選択肢がぐっと広がるのだ。
また、ただ単に「ごはんのこと」が語られるにとどまらず、その向こう側に見える家族の歴史や人間関係にしみじみ浸ることができる。
書き始めの時点ではまだ幼児だった筆者の息子が、次第に大きく成長し、いろいろなものを口にするようになっていく。ああ、この数々の食べ物が彼を健やかに育てたんだなあ、私も自分の息子のために頑張ろう、と思うことができる。
もちろん、住んでいる場所や経済面など背景は我が家とはかけ離れている点も多いので、到底手の届かない、指を咥えて見ているしかないエピソードもある。しかし、お金持ちもそうでないものも、食事なしには生きていけないのは同じ。そして、ただ生きていくための手段としてのみではなく、親しい人たちと囲む食卓がどれほど温かいものであるか、そんな「当たり前の幸福」に満ち溢れた作品だと思う。
これからも、献立に悩んだときはもちろん、折に触れて読み返したいと思わせてくれるエッセイであった。
(30代女性)
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