読書感想文「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(村上春樹)」
生きていく中で、人はどれほどのトラブルに巻き込まれるのだろう。心を抱えていることで巻き込まれるトラブルや、その人が行った何かによって知らず知らずのうちに巻き込まれるトラブルなど、トラブルにも種類はある。この物語の主人公は、たまたま始めた職業で、たまたま受けた手術で、たまたま受けた仕事で、唐突にトラブルに巻き込まれることとなる。
それはどうしようもなく不運であると私ははじめ思ったのだが、それはすべてが実は必然で、偶然に見えることのすべてが重なって、必然的にたどるはずだった彼の運命の中を歩いているのだということがわかる。今回の作品は特にファンタジー要素が強く、村上春樹がエンターテインメント小説作家であるのだということをいつも以上に感じさせる作品であるために、そのトラブルも私たちの日常とは直接結びつけにくいものではあったかもしれない。
しかし、私たちが日常の中で巻き込まれるトラブルというのもやはり、偶然の重なりに見えていながら、必然的に起こりうるものなのではないかということについては考えさせられた。特に私はトラブルに巻き込まれやすい体質なのか、いろいろなトラブルに立ち会ってきたのだが、そのどれをとっても、原因が私にないと思っていたことでも、元をたどれば様々な私の行動がかかわっているのだということに思い至らされた。
私はこの物語を読んで、自分の運命には抗うことはできないのだということを切に思い知らされた。結局この物語はハッピーエンドにも見える形で終わる。それは、主人公が自分の運命を受け止め、前を向いて歩いて行ったからだ。その運命はどう考えても悲劇的で、救われたということはできないような状況のままだ。
しかし、その運命の中でも、それを悲劇であると受け止めるのではなく、自分にとっても進むべき道が「こうあるべきなのだ」として受け止めるかによって生き方は変わってくるのだ。私は、自分が進んでいくべき道がどれほど悲劇的に見えても、実はその中には希望が見えているのだと考えられるようになった。実は絶望的な状況の中にこそ、希望は見えるのだということを、私は教えてもらったのだと思う。
(20代男性)
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