『小僧の神様・城の崎にて』には18編の作品がおさめられていて、たいへん読み応えのある短編集だ。先日、城崎温泉に行くことになり、城崎といえば志賀直哉の『城の崎にて』だと思い、改めて読むことにした。
この小説は、電車事故で命拾いをした主人公が城崎に湯治へ行き、そこで蜂、鼠、イモリなどのさまざまな小動物の死に様に触れて、生死について考えるという内容の話だ。著者自身もかつて山手線の事故に遭い、城崎温泉で療養しているので、実体験を元に描かれている作品である。
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短編なのですぐ読み終わるが、内容はとても深くて考えさせらた。「生きていることと死んでいることは両極ではない」という哲学的なテーマを、無駄をそぎ落とした淡々とした筆致で述べているので、余計に印象に残った。城崎には城崎文芸館という施設があり、城崎の地にゆかりのあった志賀直哉や白樺派の作家たちの特設コーナーも設けられている。
ハイカラだった志賀直哉は、温泉療養中に旅館の朝食は和食ではなく、パンを好んで食べていたなどのエピソードも紹介されていて、楽しく見学することができた。私が訪れたときは企画展が『鴨川ホルモー』などで知られている小説家の万城目学の特集が組まれており、城崎温泉街でしか売られていないという書き下ろしの小説『城崎裁判』が置いてあった。
この小説は、スランプに陥った小説家が担当編集者のすすめで城崎温泉を訪れ、志賀直哉の足跡を辿っていくうちに、なぜか『城の崎にて』の主人公が石を投げて殺してしまったイモリへの殺しの罪を問われてしまうという内容の話だ。2013に志賀直哉来湯100年を機に、次なる100年の温泉文学を送り出すべく、城崎温泉旅館経営研究会が立ち上げた「本と温泉」という出版レーベルによって創刊された。
『城の崎にて』が発表されて今年で丸100年になるが、このように現代の作家を通じて作品に新しい風が送り込まれることはとても面白い取り組みだと思った。
(40代女性)
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