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読書感想文「潮騒(三島由紀夫)」

「潮騒」の読書感想文

三島由紀夫の作品には小説、戯曲、評論、あるいは映画など様々なものがある。そのうちのどれがいいかとなると、余りに作品が多すぎて甲論乙駁だろう。私自身が読んだ限りでは、小説に関してはそのきらびやかな文章が鼻について、素直に好きだとは言えない作品が多い。
 
よく言われるように戯曲などの方がその構成力に感心する。しかし、小説の中でも「潮騒」だけはその文体に癖がなく、三島作品が苦手な私でもストーリーに没頭できた。解説によると、この小説は「ダフニスとクロエ」という古代ギリシャの作品からストーリーをそのまま取ったもので、その文体も一種の実験的なものだという。
 
その実験作が変に持て囃されたことで、三島自身は面映い思いだったようだ。しかし、自分自身を出さないことでこういう文章が書けるのなら、むしろ三島には自分の正体を隠した作品をどんどん書いていってほしかったと思う。ここで見られる文章と、例えば「仮面の告白」や「金閣寺」に見られる文章とでは、どちらが普通の読者に親しみやすいか、明らかだからだ。
 
それにしても、日本のいかにも田舎臭い漁村を舞台に古代ギリシャ風の作品を書くなど、三島というギリシャ好きの特別な性癖の作家でしか思いつかなかっただろう。実験作ということで、恋愛模様もリアルなつもりではなく、一種の様式にしかすぎないのだろうが、それが何度も映画化され、アイドルたちの主演作として人口に膾炙したものとなったのは確かに皮肉である。
 
その面で余りに有名になってしまったため、この作品を三島の意図通り、ギリシャ的に扱うアレンジ作品が生まれていないのは不幸なことかもしれない。三島自身が歌劇にする計画を立てていたのは、作品への誤解を正そうという意図でもあったのだろうか。
 
単なる恋愛物語としてもこの小説は読み継がれてゆくだろうが、その枠を越えギリシャ的古典美を見せる作品としての評価はこれからだろう。「黒蜥蜴」の映画化のような大胆な脚色作品が待たれるところである。

(50代男性)

 

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