読書感想文「命売ります(三島由紀夫)」
紀伊國屋書店でおすすめキャプションがついていたので、気になって手に取った。もともと三島由紀夫の文章が好きで何作も読んでおり、特に「金閣寺」は好きな小説ベスト3に入るほどだ。しかし、内容としてカタいというか、いかにも純文学の雰囲気があるので、腰を据えて本を読むぞ!という気合いのある時にしか読み始められなかった。
実際、どの作品もおもしろいのだが読み進めるのにはそれなりに時間がかかった。ところがこの作品は、それほど肩肘張らなくても軽い気持ちで読める。普段本を読み慣れていない人でも読み通せるのではないかと思う。私は図書館で借りたその日に、一気に読み終えてしまった。
いつも通り文章はものすごく巧みで、日本語が整っているので読んでいて気持ちが良い。それに加えてユーモラスで、三島もこんな作品を書くのだなと新鮮な驚きがあった。それでいて、ただの暇つぶしの娯楽に終わらない深みもあるのがさすがだ。
自分の命を売りに出したくせに、自殺したかったからと成功しても報酬に頓着しない男と、人の命を金で買って様々なことを依頼してくる人たちを見ていると、欲望とか命の価値とかについて考えさせられた。途中まで、結局無私無欲でいれば何事もうまくいき、結果としてお金も入ってくる、という教訓めいた話なのかなと思って読んでいたが、そうでもなかった。
ニヒルでブラックで厭世的なところが、やはり三島らしいなと思った。最後のほうで、ばらばらに見えた話がひとつにまとまっていくので、スッキリする感じはある。だが、依頼に答えては次の依頼を受け、というオムニバス形式で続いてくれたほうがおもしろかったのにな、と個人的には思う。
まとめてしまったせいでエンターテイメント性が強まってしまった感じがするのだ。何も求めない主人公が色々なものを手にして、しかも人の役に立ってしまうというだけの話のほうが、私としては楽しめたと思う。とはいえ三島の新たな魅力を発見できたので、読んでみてよかった。文豪の少し違った毛色の作品を他にも読んでみたい。
(20代女性)
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