「門」の読書感想文①
主人公の宗助の父親が亡くなり、残った借金。家を売って返そうとするも、すぐには売れずに、とりあえず借金は叔父に片付けてもらう。
その後も、家と幼い弟のことを叔父任せるも、宗助が東京をはなれたことで、疎遠になり、家がどうなったかは有耶無耶になる。
やっと東京に戻ってきてみれば、話を聞く前に叔父が亡くなってしまい、とたんにもう弟の世話を見ることはできないと言いだした叔母に、事情を聞きにいくと、こう言われる。
叔父曰く、借金を片付けた代わりに家をもらったようなものだと。それに、宗助には継ぐ権利がないから、家を売ったお金はその弟のために使うとして貯金していた。そのお金で、つい投資が好きな叔父が家を買ってしまい、不幸なことにその家が燃えてしまった。
だから、弟のために使えるお金がなくなってしまったのだと。これら叔母の弁明というか、そのわりには淡々としているような事情の説明を読んだときは、開いた口が塞がらなかった。
宗助がぐずぐず話を聞かなかったせいもあるとはいえ、むしろ、これ幸いとばかり、よくもまあ好き勝手やってくれたものだと。この話が本当にしろ、嘘にしろ、人から預かったお金を、しめしめと自らの懐にいれておいて、知らん顔で通そうとしているのには違いない。
不義理な行為自体にも驚かされるが、何より、叔母が宗助に、堂々と白状しているのが信じられなかった。普通なら後ろめたさや、やましさを覚えて、誤魔化そうとしたり、見苦しい言い訳をしたりするのものだ。
なのに、読むかぎり、言葉を選んだり、申し訳なさそうな顔をしているわけでもない。なんなら、預かっていた、これも遺産である骨董を売ろうとしたら、騙されて持ち逃げされたと、他人事のように言って、しかも一つだけ手元に残った屏風を、せめてこれだけでも返してあげればいいのに、会いにくるまで、放っておいたという。
やっていることと言い、それを臆面もなく話すことといい、宗助を馬鹿にしきっている。でも、宗助は怒ったり傷ついたりしない。人から、これほどまでに虚仮にされても、しかたないと思える立場にあると、弁えている。
それにしたって、相手がなにも言い返せない立場にあると見なしたら、こうまで厚顔無恥になれるものかと呆れるし、もっと驚くのは叔母にすこしでもお金を返すつもりがないのと、被害者といえる宗助に頭を下げないどころか自分も生活が苦しいのだと、却って被害者ぶって同情をひこうとしていることだ。
主犯は叔父で、すでに亡くなっているからもういいだろうという話ではないし、その傍にいて止めるでも宗助に連絡するでもしなかった叔母に、咎がないわけではない。
それに相手が罪人だろうと預かった金を使いこんでいい訳にはならないはずだが、そう思っているような態度に見える。
そう思えるどんな理屈があるにしろ、自分になんら咎はないと確信しているからこそ横領まがいのことをしながらも、横領された側の宗助を目の前にして、なるほど胸を張ってにこやかにしていられるのだろう。
ただ、おそらく本人の心もちは一片の曇りがないようでも、傍から見るとその笑顔に人間の醜さが剥きだしになっているようで、胸糞が悪くなる。
だから宗助は、自分がないがしろにされて腹が立つより、そんな人間の嫌な一面を見たくなくて、遺産や弟の処遇について、叔父家族と話し合うことを渋ったのではないのだろうか。自分が何を言ってもしても許されて、自己嫌悪もせずにいられたらいいのになあとは思う。
そういう風にふるまっている人を、たまに見かけることがあり、すこし羨ましくなるがなんとなく生きるのが嫌になるようでもある。作中では叔母家族が幸せそうで、宗助たちは不幸に見える。
それでも、たとえ宗助や御米のように苦しむことになったとしても、自分を少しも悪いと思わず人を足蹴にすることで得られる幸せなんか、欲しくないと思うのである。
(20代女性)
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