読書感想文「カッコウの卵は誰のもの(東野圭吾)」
タイトルを見た時には、このような複雑な展開になるとは思ってもいなかった。まさかの展開に様々な人の思惑が重なり、心理サスペンスの面白さにドンドン引き込まれていった。始めは、『ちゃれんじ?』というスノーボード体験エッセイを先に読んでいたので、さすがスキー好きの作者はウィンタースポーツに詳しいなぁと感じた。
そこに、乳児誘拐事件がストーリーの根底にあり、父親の緋田宏昌の苦悩が色濃く出ていたので、どうなるのかとハラハラしながら読み進めた。自分の身近なところでは、子供に恵まれず夫婦二人で生活する方はいても、養子をもらい育てている方はいなかった。その為、緋田宏昌のような血の繋がらない親子でありながらも、スキーも含めて親子の絆の強さがしっかり築かれている事に感動した。やはり、常に一緒に居る人の方が、気持ちの繋がりは深いように感じる。
父の不安な胸の内に全く気づく様子のない娘の風美は、父をまっすぐ見ていて信じきっている姿が眩しいく思えた。しかも、自分のファンと名乗る人が、本当の父とも知らずにドンドン近付いていく様子に、読者なのに父・宏昌の動揺を一緒に感じとってしまった。
この出会いが自分たち親子の縁が断ち切られてしまう失望感と、ついに真実を告白する時が来た事への罪悪感が感じられて、胸が痛んだ。確かに、20年余も一緒に過ごしてきたので、手放したくないと思うが、もしも自分ならここまで真実を隠し通せていただろうか。母の自殺も納得できる。そして、これからも隠し通そうとできるだろうか。
本物のカッコウは、自分の卵を他の鳥の巣に産み、育ててもらう習性なので、きっと罪悪感はないのだろう。だが、人には感情があるので、手放す側も友に自分の娘を託したとはいえさぞ辛かったであろう。人の情の深さは、測りきれない深い絆になる事を思い知らされた。
そして、いろいろな人の手をかりて、子供は大きくなっていく。自分は、いまいち人と関わる事が苦手なので、回りとの関わり方次第で、ドンドン人との絆が深くなる事を改めて感じた。少しずつでもいいから、人の絆を紡いでいけるようにしたいと思う。
(40代女性)
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