「三匹のおっさん ふたたび」の読書感想文①
前作を読んで気に入り、続編である今作も期待しながら読み始めた。前作同様、魅力的な登場人物の活躍に加え、主人公のおっさん達三人の周辺の人びとを丁寧に描く事で、おっさん達とその周りの人びととの「人とのつながり」を意識させられる話が多い様に感じた。
続編の記念すべき第一話では、意外にも主人公である三匹のおっさん達は全くといって良いほど活躍しない。第一話の主人公は貴子であり、ただのワガママお嬢様が年を取っただけのようなキャラクターであった貴子が、パートの仕事を通じて成長していく過程が丁寧に描かれ、一人の女性の成長物語として読む事が出来る。
パート先の厳しい先輩のふとした優しさが心に沁みたり、甘い言葉で仲良くしてこようとするパート仲間が実はとんでもないトラブルメーカーであったりと、それまで仕事をしてこなかった貴子がパートをきっかけに様々な人と触れ合い、変化し、成長していくのである。
第五話にあたる地元の祭りを復活させる話でも、三匹のおっさん達はほとんど活躍はしない。しかし、重雄の息子である康生の父に対する思いと娘への愛情と、そして町内の人びとの関係が細やかに描かれている。三匹のおっさん達の痛快な活躍を期待していたのであれば肩透かしをくらう内容であるのに、この第五話は非常に読みごたえがあった。
今作全体を通じていえる事は、前作よりもより「人とのつながり」を重視した内容になっている点であろう。それは、第六話の終盤、キヨの考えを通して、まとめられているように思う。「暇潰しだが常に何かと触れ合っている。触れ合った結果、少しだけ変わったものが、いくつかある」「僻んで門を閉ざしていても何も始まらない。閉じた輪は何も生み出さない」
『三匹のおっさんふたたび』の内容は、この二文に集約されている。おそらくはこれが、作者が今作を通じて意識していた事なのであろう。私は、この二文を読んだ時に、まるで冷水を浴びせられたかの様なハッとさせられる感覚を覚えた。
私はうつ病等の問題が悪化し、大学院を中退せざるを得なくなり、中退してしまった事により自暴自棄となり、人との関係を断ってしまっていた。この本を読んだ時の私は、ほとんど引きこもりの状態だったのである。まさしく、僻んで人とのつながりを断ち切っていた状態、作中の言葉でいう「輪を閉じた」状態だったのである。
主人公であるキヨは、人とのつながりを保ち、それを広げる事で、良い変化を遂げる事が出来た。その周りの人びとも、人とかかわる中で良い方向に成長していっている。このままではいけない、このままでは何も生み出せない、という事は薄々わかってはいたものの、どの様な直接的な励ましの言葉も私を奮起させるには力不足であった。
しかし、この『三匹のおっさんふたたび』を通して描かれるキャラクターたちの成長を眺め、見守り、最後にこの二文を読んだとき、私は再び頑張ってみよう、人と繋がっていこう、という気持ちになる事が出来たのである。それは、人とのつながりを丁寧に描いてきた今作の真骨頂ともいうべきものだと感じている。
まだ完全復活とは言い難い状態ではあるが、今作を読んだ後、私は確実に変わる事が出来た。その変化は、完全に輪を閉じきらずに、本を読むという外部との何らかの繋がりが残っていたからこそ、実現したものだと思っている。
(20代女性)
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