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読書感想文「失われた時を求めて(マルセル・プルースト)」

「失われた時を求めて」の読書感想文

世界中の多くの小説家に影響を与えた作品だ。プルースト本人は小説とされるのが不服だったと言われている。私はこの本を読んで、暫く他の文芸作品が全く読めなくなるほどの衝撃を受けた。30年近く何度も読み返し、他の方の翻訳本や研究書も読み続けてる。
 
この本は、流れていく時の中で多くの存在を失った病弱の主人公が、無意識的記憶による幸福感を発見するのであるが、敷石に躓いた瞬間に一瞬にして多くの幸福感が蘇り、何度も何度もわざと敷石に躓いてみる主人公の姿が目に浮かぶようで、プルーストの世界に常に引き込まれていく。 
 
無意識的記憶の幸福感は目に見える物ではなく、感覚の中に深く刻まれていて、ちょっとした瞬間に蘇るもの。目の前の世界がどのように変化しても、どのように不幸のどん底に陥ったとしても、幸福を感じる事ができるとプルーストは悟ったのだろう。主人公はプルーストの分身とも言えるほど境遇が似ていて、年を経るごとに家族や親友や恋人を失っていき、自分自身も若さを失っていく中で、何も残っていないと思っていた自分自身には唯一幸福な記憶だけが残っていた。
 
それは思い出ではなく、五感で感じる幸福感だ。おそらくその幸福感は、プルースト自身を幸福で包み込んでいた事だろう。何度読み返しても新しい発見があり、毎回その世界にどっぷりと浸かってしまう。プルーストは子供のころから作家になる事を夢見ていたが、作品のテーマが定まらずに高齢になり、やっと見つけたテーマがこの作品に凝縮されている。
 
そして、いい作品をいくつも書き上げるのではなく、本当に納得できる作品を一生のうち一作品だけ書ければいいのだと満足していたらしい。この作品に全てをかけ、何度も何度も書き直し、亡くなる時もこの作品の執筆中だった。プルーストがもっと長く生きていたとしても、永遠に未完成のままだっただろうと言われるくらい、プルーストは常にこの作品に向かっていた。
 
他にもいくつかのプルースト作品が世にでているが、その内容は全てこの「失われた時を求めて」に繋がるものだった。「一生のうち一作品だけ」に、それまでの人生のすべてを綴った作品といえるのではないかと思う。
 
(50代女性)

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