「三匹のおっさん」の読書感想文①
タイトルに惹かれ、この本を読み始めた。軽い気持ちで読み始めたがすぐにどこか、ただ物語を楽しんでいるだけではない自分に気が付いた。第一話にて定年退職した主人公キヨに、私は父を重ねてしまっていたのだ。定年退職した夜、キヨの複雑な胸中も知らずに家族は無神経な振る舞いをする。
キヨの目線から描かれているからこそ、読者である私も無神経な家族に苛立ち、キヨに感情移入をする。その一方で、父の顔が思い浮かんだのだ。思えば、私は父が定年退職した時に何もしなかった。この第一話の様な宴席でさえ設けず、家族の誰一人として特に何もしなかった。父も仕事を家庭に持ち込まない人であったので、表面上は特に何も変わらなかった。長い間勤めてきた仕事を離れるのに何の感慨もなかったとは思えない。だが当時の私は、父に関してあまりにも無関心すぎた。
物語を読み進めていくと、キヨは同年の幼馴染シゲとノリと「三匹のおっさん」を結成するが、定年前後の三者三様の人生があり、それぞれに重みがある。そして、それぞれ何処か不思議と父と重なる部分があった。例えば、二話目にノリの娘の早苗が登場するが、彼女はノリがかなり年をとってから授かった待望の子であり、溺愛されている。私も父が40代目前で生まれた一人目の子である。
私もこの早苗の様に父に愛され大事されていたのだろうか、と過去を振り返らずにはいられなかった。また、シゲの外見は非常に父に似ている。そのシゲが妻との愛を再確認する第三話目を読んだ際には、父は母をどのように思っているのだろうかと思わずにはいられなかった。
その後の話も、基本は町内のトラブル解決ストーリーが展開され、陰ながらに街の平和を守る三匹のおっさんの活躍が描かれ、痛快である。だが、私はこの3人のおっさん達に対して、やはりどこか父と重ねて見てしまっていた。キヨははじめ、家族の無神経さもあるが老人扱いされ拗ねたような部分があった。
しかし、シゲやノリとともに三匹のおっさんとして痴漢を撃退したり、中学生や高校生と交流を持ったり積極的に人と交わり、それまで触れてこなかったような世界と交わる事で、少しずつ変わっていく様がみてとれる。孫である祐希との関係が徐々に良好になっていく所から、特にその変化を感じ取れる。
父はどうなのだろうか、と思わずにはいられない。父はどのような思いで勤め、私たち家族を養ってきたのであろうか。その職を離れる時、どの様な思いが心中に去来したのであろうか。そして今、何を考えどの様に過ごしているのだろうか。考えてみれば、私は身近にいるはずの父のことを何も知らなかったのである。
アルバムを開き幼い頃の自分の写真を見れば、愛おしそうに私を抱いて笑っている父の姿が写っている。父は、三匹のおっさんのノリの様に、きっと私をとても愛してくれたのだろう。幼い時は父に遊んでもらう事もあったが、思春期に父に反発するようになり、それ以降は父に無関心になってしまった。ノリの様に深く私を愛してくれたであろう父は、私との関係が希薄となりどの様な気持ちだっただろうか。そして定年退職した時にはきっと、キヨの様にさまざまに思う所があったに違いない。
それまでまるで意識してこなかった「父」という存在が、この物語を読み進める内にみるみる大きくなっている事に、私は衝撃を覚えた。どのシーンを読んでも、その物語を楽しむ一方で、父に思いを馳せている自分がいたのである。今年の春、父は腰を患い入院しかなり大きな手術をした。幸い術後の経過も良く既に退院してはいるが、未だ日常生活に支障がある状態である。
父の老いを強く意識させられただけに、父の事をもっと知りたいと強く思う様になった。そう思えるようになったのは、ちょうど父と重ねられるキャラクターたちが生き生きと活躍するこの物語を読んだからこそだろう。それまで無関心であった「父」という存在を、この物語を通して強く意識させられたのだ。
今私は、父と出来る限り話をするようにしている。ずいぶんと遅くなってしまったが、思春期以降ほとんど無関心であった空白の時期を取り戻すかのように、父と接している。『三匹のおっさん』は、私にこのような大きな変化をもたらしてくれた印象深い物語として、今でも時々読み返している。
(20代女性)
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