読書感想文「終わらざる夏(浅田次郎)」

祖父はシベリア抑留を体験した人だ。彼は私が小学生の頃に亡くなっており、戦争体験をあまり聞けずにいたことを後悔していた時に、丁度この本に出合った。シベリア抑留の描写自体は少ないが、未体験の戦争について、勉強になる点が多々あった。この作品は軍人から一般市民の少女まで、様々な登場人物の視点で描かれる群像劇となっている。
 
一番印象に残ったのは、赤紙を発行する人の話だ。例えば、赤紙が届いたショックを押し殺し「お国の為に行って参ります」と旅立つ息子と母親の描写は、書籍やドラマなどで目にする機会の多いシーンだ。しかしこの本を読むと、赤紙を発行する側もまた、計り知れない苦労を抱えていたことに気付かされる。
 
招集令状の発行はクジなどでランダムに決める訳では無く、各家庭の家族構成等を調べて、畑仕事を担える男手が途絶えることの無いように、兄弟の多いところから出兵させるといった熟考の伴う選定作業を行っていたそうだ。しかし、こうしてじっくりと人の手で選考されたことが、余計に残された身内からの反感を買ってしまった。
 

 
 
赤紙を発行する人は、地域じゅうから白い目で見られていたそうだ。好きな仕事を自分で選べる今の時代では、とても考えられない苦労である。給料が低い、仕事が大変だ等と文句を言っている自分が、とても小さい存在に思える。こんなに可哀想な人が居たんだから自分も頑張らなければ、という考え方は好きではない。
 
しかし、こういう苦難を乗り越え築き上げられた今を生きていること、命の危険に晒される機会が殆どない国に住めることには、素直に感謝していきたい。軍人の日常描写が、普通の人と変わりなく描かれている様子も興味深い。当たり前と言えば当たり前だが、彼らも任務から解き放たれれば、ただの人間だ。
 
私達と変わりない存在が、冗談を言って笑い、ささやかな恋愛をし、人を殺める為の訓練を重ねている。ちぐはぐな描写がどこか夢のように非現実的で、最後の戦闘描写でこれが実話を基にした話だと思い出し、胸が苦しくなった。ありがちな感想だが、やはり戦争はすべきではない。祖父及び戦争で亡くなった総ての方のご冥福を、改めて祈りたい。
 
(20代女性)
 
 
 
 

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