「闇の花道―天切り松 闇がたり」の読書感想文
実はこの作品を読むまでは浅田次郎先生の作品を読んだことがなかった。人に勧められて「義理人情もの好きだろう」といつもならば江戸ものを貸してくれる友人が珍しく違う時代のものを貸してくれた。そういう縁があって初めて読んだのが、この天切り松シリーズである。
主人公の老人松蔵が六尺四方にしか聞こえないという夜盗の声音「闇がたり」を使って大正時代の在りし日のことを、拘置所に放り込まれた中途半端な現代の子悪党たち(若者)に語って聞かせるというのが大筋だ。
それぞれの話は読み切りスタイルで、とても読みやすいものになっている。主人公の老人松蔵が語って聞かせるのは、自分が若かった仕込み時代の話だ。その仕込み時代、姐さん兄さん親分さんの人情深くて義理堅い粋でいなせな姿がとても鮮やかである。
それぞれのキャラクターがとても印象的でありながら、物語そのものをキャラクターのアクの強さで台無しにしたりしないのが良かった。
読み始めれば、戦前までの赤レンガの洋館の織り成す豪華絢爛な世界とどぶ板の向こう側にある貧困の光と影の強さが際立った世界にバランスをとって生きる人々の強さに引き込まれていくだろう。
主人公やまわりのキャラクターの使う、歯切れのいい江戸弁がリズムよく炸裂し仁義や心意気や啖呵が、読み手である私のうじうじとした心の中を晴れやかな気持ちにしてくれた本である。人の情の厚さや、思いやりの深さが今この日常でどれだけ自分自身の周りに生き残っているのであろう。
キャラクターひとりひとりがはっとするほど人情深くていなせで、もしも自分の周りにいてくれたらどれほど生活が面白くなるのだろう。つまらないことで悩むことも少なくなるのだろうと考えさせられる事もある。
家業は泥棒の悪人家業の主人公たちだが、弱きを助け強きをくじく鼠小僧スタイルなのも私のお気に入りだ。欠点と言えば、続きをすぐにでも読みたくて仕方なくなるのがこの本の欠点だろう。
(30代女性)
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