読書感想文「さぶ(山本周五郎)」

「さぶ」というタイトルから、さぶが主人公なのかと思ったが、主人公は英二という青年で、さぶはその友人だったので驚いた。だが読み進めていくと、さぶは主役になれない人間なのだということがわかった。学校でも職場でも、目立っていつのまにか中心にいるような人物もいれば、いつまでもその他大勢の1人でしかない人物もいる。
 
英二は前者で、さぶは後者なのだと思った。後者の人間にあえてスポットライトを当てる物語もあるけれど、この小説はそうではなかった。さぶはずっと脇役のままで、英二は物語の中心となって話を動かしていった。英二は無実の罪を着せられて、そこからどんどん転落していき、加役方人足寄場というところに収容されることになってしまった。
 
そこでは英二は最初他人を信用しておらず、ほかの人たちと全然打ち解けなかったが、いろんな人との交流を経て立ち直っていった。英二がどん底から這い上がっていく姿は、見ていて純粋に気持ちがいいと思った。だがそれだけではなく、作中でほかの登場人物たちが英二に対して英二はそういう、なにかを成し遂げられる人だ、選ばれた人だというようなことを折に触れて言っていたところが面白かった。
 

 
 
たしかに、誰もが英二のようにできるわけじゃないと思う。英二と対照的に描かれているのがさぶだと思った。さぶは不器用で冴えない青年で、物語の中でもパッとしない印象だった。だが、英二が逆境に立たされたときもずっと友人として彼を支えて、英二が立ち直るための大きな力になった。愛すべき脇役だと思う。
 
主役は脇役がいるから主役になれるのであって、どちらがいいとか悪いの問題ではないのだと感じた。どんなに優秀な人間でも、1人で生きていくことはできないし、できると思うのはただの思い上がりなのだと思った。英二も、さぶやその他の人間に支えられて生きているのだと実感してからは、謙虚さがでて、人間としての厚みが増したと思う。
 
また、登場人物の1人のおのぶという女性も魅力的だった。英二に想いを寄せながらも結ばれることはなかったが、英二に大切なことをたくさん教えた女性だったと思う。人足寄場を出て働き始めた英二が、家族を養わなければと気負いながらも思うように仕事が得られず焦っていたときに、誰かを養おうと思うのは思い上がりだと言ったセリフが印象に残った。
 
英二には妻がいたが、仕事をしてお金を稼ぐのは英二でも、妻にも妻の役割があって、お互いに支え合っているのだと言っていた。この考え方は今にも通用するのではないかと思う。50年以上前に書かれた作品だが、今読んでも納得できるところがたくさんある作品だと思った。
 
(30代女性)
 
 
 
 

さぶ (新潮文庫)
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